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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

釣り糸で人工筋肉を作ろう

2022年3月10日
宇都宮大学 工学部
機械システム工学コース

はじめに

 釣り糸を使った人工筋肉の開発は、安くて、柔らかく、大きな変形ができることから、多くの研究者が実用を目指して研究しています。・・・と、聞くと作るのが大変だと思うかもしれませんが、至って簡単な方法で作ることができるので作り方の実例を紹介します。

準備するもの

  1. ナイロンテグス(30号) 1.5 m
  2. タコ糸  1束
  3. 定温乾燥機(180℃程度で庫内を定温にできるもの) 1台
  4. ペットボトル(1リットル以上) 1個
  5. S字フック(MS-2.5) 2つ
  6. アイストラップ(MSPF50) 1つ
  7. 万力 1台
  8. ヒートガン 1台
  9. ねじ(呼び:M5 長さ:25mm) 2個
  10. アルミフレーム(作成する人工筋肉+30mm以上)(HFS5-2020) 1本
  11. アルミフレーム用先入れバネナット(HNTU5-5) 6個
  12. アルミブラケット材(HBLFSN5-SEU) 4個
  13. アルミフレーム用6角穴付きボルト(SCB5-10) 4個
  14. 工具類

 型番はMiSUMi-VONA (URL: https://jp.misumi-ec.com/ ) のものです。

作り方

 人工筋肉のもととなるナイロンテグスの成形方法の一例を図1に示します。ナイロンテグスを2m程度切り出し、その両端にS字フックを結びつけます。その後、万力を頑丈な棚の天板など安定した場所に万力を取付けて落ちないようにしっかり固定します。この際には安全によく気を付け、ヘルメットを装着した上で脚立などを使い落下しないように充分に注意し、固定位置の下に誰もいないことを確認してください。固定が出来たら万力の口金(くちがね)に、ナイロンテグスに取り付けた片方のS字フックを固定します。

図1図1

 ペットボトルの飲み口にはタコ糸をしっかりと巻き付け、先端部分に完全結び(漁師結び)で輪っかを作ります。そのペットボトルに1リットルの水を入れ、ナイロンテグスの片方のS字フックに取り付けます。その後、ナイロンテグスに取り付けたペットボトルをゆっくりと回転させ続けます。図の左側のように「らせん形状」になったら、それが解かれないようにペットボトルを固定します。

図2図2

 次にナイロンテグスを熱処理する準備を行います。熱処理の過程を図2に示しました。ナイロンテグスの「らせん形状」を保ったまま熱処理しなくてはならないため、耐熱性の固定台を作ります。今回は簡単なものとして、アルミフレームとネジで作った簡単なものを用意しました。図中のネジ部はナイロンテグスの両端をひっかけて固定するためのものです。準備するものにある⑪アルミフレームの溝の1つに⑧バネナットを2つ入れ、それぞれに⑨ネジを軽く閉めて取り付けます。こうするとネジ部が溝をスライドできるので、ナイロンテグスの長さに合わせて固定することができます。図1で「らせん形状」になったナイロンテグスを取り出して、その長さに合わせて両端をそれぞれのネジにしっかり固定できたら、固定台部分を作ります(乾燥機の庫内が小さい場合は作る必要はありません)。固定台は、アルミフレームの4面にある溝にそれぞれ一つずつ⑧バネナットを入れ、⑫ブラケット材を⑬6角穴付きボルトでしっかりと立つように図2のように固定します。

 次は熱処理です。化学実験室などにある乾燥機を使います。乾燥機の庫内は、あらかじめ180℃の定温になるように設定しておき、温度が設定温度になったら、固定した「らせん形状」のナイロンテグスを庫内に入れます。とても熱いので、耐熱手袋やプライヤーなどを使って入れるようにしてください。その後、30分間定温で加熱したら、温度設定を切って自然放冷してください。室温と同程度の温度になったら取り出して完成です。

図3図3

 それでは、次に動作チェックをしてみましょう。図3に動作チェックのための実験装置を示しました。人工筋肉の両端にS字フックを取付け、片方を天板などに固定したフックに固定し、もう片方には再び水 1リットルが入ったペットボトルを取り付けましょう。

 人工筋肉を動作させるのには熱が必要です。ヒートガンをHIGHモードにし、4cm程度の離れたところから図のオレンジの矢印のように全体を加熱するようにすると、図4のように10%程度収縮し、1リットル(約1 kg)を持ち上げることができました。

図4図4

動作原理

 この人工筋肉に使用されているナイロン繊維は、分子の向きが繊維方向に揃って連なっている高分子構造をもっています。この構造をもつことで、ナイロン繊維は熱によって体積が膨張したり、繊維方向に縮んだりする性質を持っています。この性質の事を「寸法変化の異方性」といいます。

 この繊維に撚り(より)が加わると、繊維がねじれて図5のように断面が「らせん状」になっていきます。このように大量のねじれを挿入していくことで、加熱されたときに元の繊維方向の収縮と膨張が起こり、寸法の異方性が全体の圧縮となって発現されます。

図5図5
※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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