ケイ素:「有機」と「無機」の2つの顔
みなさんは、「ケイ素(シリコン)」といわれて何を思い浮かべますか。コンピューター、スマートフォンなどの電子機器は、多数の半導体部品からできていますが、その半導体の主成分はケイ素です。また、ガラスや岩石、土の主成分もケイ素からなっています。このように、ケイ素の主なイメージは「無機物」であり、生命体とは正反対の物質という印象ではないでしょうか。
しかし、ケイ素は、生命体に関連した物質である「有機物」としての側面も持っています。タンパク質、セルロース、繊維など生命活動に深く関連した物質の骨格は、「炭素」原子から構成されていますが、周期表ではケイ素は炭素の真下にあります。これは、無機物の代表格であるケイ素が、有機物の代表者の炭素に最も近い性質をもった元素であることを示しています。学問的には、有機物に近い性質をもったケイ素化合物のことを「有機ケイ素化合物」とよびます。
有機ケイ素化合物は、「無機物」のような高い耐熱性・耐久性と、「有機物」のなめらかさ・しなやかさを兼ね備えた特殊な素材なため、宇宙服にも用いられています。その一方で、ソフトコンタクトレンズ、テレビやゲーム機のキーパッド、ほ乳ビンの乳首などのように、生活の身近な素材としても幅広く利用されています。ほかにも色々なものに有機ケイ素化合物が含まれていて、これなしでは快適な生活を送ることができません。
21世紀は有機ケイ素の時代?
われわれは、これまでよりもさらに高性能なケイ素化合物や、これまでにない性質のケイ素化合物の合成に向けて研究を行なっています。例えば、光を発する有機物にケイ素を導入すると、その発光効率が大幅に増大することが知られています。これを応用すると、これまでよりもより明るく輝く発光材料や、より高い感度でDNAの塩基対の違いを見分けることができる分析試薬などの開発が可能となります。また、光治療薬にケイ素を導入すると、光の吸収効率が増大するので、治療効果がアップします。色素増感太陽電池では、ケイ素の効果によって発電効率や耐久性を向上させることができます。
20世紀後半は、半導体シリコンを軸とした電子機器類が飛躍的に発展したことから「ケイ素の時代」とよばれます。これからは、有機ケイ素化学のさらなる発展によって「21世紀は有機ケイ素の時代」とよばれるようになると我々は期待しています。
ケイ素を導入した蛍光分析試薬によるDNA鎖の分析の様子
ケイ素の導入されたポルフィリンの例。
太陽電池、光治療薬への応用が期待される。
色素増感太陽電池は、ケイ素の導入により効率・耐久性が向上する。