退職前に執筆をと依頼されたので、今までの研究生活について振り返ってみました。助手(現在の呼称では助教)の頃は研究中心の生活で、よく夜中まで研究を続けていました。助教授(現在の呼称では准教授)の時代には、講義など研究以外の時間が長くなり、教授になると学内行政や学会活動が主の生活になりました。多くの有能な共同研究者や学生に恵まれて、教授になっても雷観測などの研究活動を続けることができたのは幸いであったと感謝しております。
雷研究には、雷放電現象に関する研究など物理的な研究分野と、雷害対策など工学的な研究分野があります。私は雷害対策を博士課程在学中から進めてきましたので、2028年3月まで継続すると40年間雷に関する研究を続けたことになります。雷害対策に関する研究では、雷放電について仮定をおいて進める場合が多くあります。多くは簡略化が目的であるため、雷放電路は大地に垂直であり、雷放電路モデルにおいては伝送線路モデル(雷電流は減衰なく放電路を雲まで進展すると仮定)に従うと仮定します。雷害対策において電位上昇によるフラッシオーバが主たる検討対象である場合には、µsオーダーの現象が主たる検討対象となるため、これらの仮定は概ね妥当なものとして受け入れられています。
雷によるフラッシオーバに関する対策は、避雷器や避雷装置の適用により、ほぼ完成したと考えられています。我が国の配電線においては200m以下と密に避雷器が設置されていますので諸外国で主たる検討対象とされる、配電線以外への落雷による電磁界放射に起因する誘導雷によるフラッシオーバは激減し、架空地線も設置されていることから直撃雷によるフラッシオーバも防ぐことができるようになってきました。ここで顕在化したのが雷のエネルギーによる被害で、処理エネルギー超過による避雷器や避雷装置の焼損などが含まれます。雷のエネルギーを評価するためには、電流観測を行うのが唯一の手段になります。このため2007年以降は電流観測を実施するとともに、電界観測によるエネルギー評価に取り組んできました。電界観測によるエネルギー評価でも50%値などの統計データは概ね正確に評価できる事がわかってきました。
雷電流の実測を行う上では多くの研究費を必要としますが、雷性状に関する研究は基礎研究であり、潤沢な研究費を獲得するには難があります。それでも、目的意識をもって資金を振り向けて何とか世界と戦ってきた結果、国際的な組織の役員や国内学会の役員を務めるまでになる事が出来ました。現状でも風力発電をなどの再生可能エネルギーの普及により、風車への直撃雷により発生する事故事例が報告されていますが、その対策を考える際にも基礎研究の結果得られるデータが不可欠になります。一見道楽に見える基礎研究の代表例である雷研究ですが、有用性があることを強調して結びとしたいと思います。
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