皆さんは「骨」と聞くと、どのようなものを想像するでしょうか。骨をナノメートルという非常に小さな世界まで見ていくと、実は驚くほど精巧につくられた「材料」であることがわかります。私たちの研究室では、このような生物が長い時間をかけてつくり上げてきた材料の仕組みに学び、それを工学の力で再現・変革し、さらに新しい機能を付与する研究を行っています。
私たちが特に注目しているのが、骨や歯の主要な無機成分である「アパタイト」です。アパタイトは、生体との親和性に優れたバイオセラミックスとして知られています。実際の骨では、ナノメートルサイズのアパタイトがコラーゲンなどの有機物と巧みに組み合わさり、精巧な複合構造をつくっています(図1)。私たちは、こうした生体の材料づくりに学び、アパタイトのナノ粒子の大きさや形、表面を制御するとともに、有機分子と組み合わせることで、天然の骨にみられるような無機/有機複合構造を人工的につくり出す研究を進めています。さらに、そこに天然の骨にはない新たな機能を加え、生体材料の可能性を広げています。
生体材料そのものをつくることと同じくらい大切なのが、材料と生命が出会う場所を「みる」ことです。人工的につくった生体材料を体の中に入れると、その表面にはまずタンパク質などが集まり、その状態を細胞が認識します。つまり、生体材料と細胞の間では、目には見えない非常に小さな世界でさまざまな相互作用が起きています。私たちは、生体材料の表面や界面を詳しく計測しながら(図2)、どのようなナノ構造や表面状態であれば細胞にとって好ましい環境になるのかを明らかにしようとしています。
私がこの研究を通じて学生の皆さんに伝えたいことの一つは、身の回りの当たり前を、当たり前と思わないことです。皆さんが骨や歯を見ても、普段は「なぜこのような構造になっているのだろう」と考えることは少ないでしょう。しかし、小さな世界まで掘り下げていくと、そこには人類がまだ十分に理解していない巧妙な仕組みがあります。
大学での研究では、予想した結果が出ないことも珍しくありません。むしろ、予想と違う結果が出たときに「なぜだろう」と考えるところから、新しい発見が生まれることが多々あります。皆さんもぜひ、身近なものに「なぜ?」という疑問を持ってみてください。その小さな疑問が、いつか社会を変える新しい技術につながるかもしれません。
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