自然災害の一つに津波災害があります。最近では2004年にインド洋大津波災害、2011年に東北地方太平洋沖津波災害が発生し、ヨーロッパ諸国も津波災害に関心を持つようになり、津波災害はこれまで以上に世界的な関心事となっています。
地域社会の津波防災力は植物における最少養分律と同様に最も脆弱な要素に依存すると考えられます。したがって、津波の防災・減災は理学、工学、社会科学、人文科学などといった様々な学問分野が連携し、総合的に取り組む必要があります。
津波には工学的な側面一つを見ても判らないことがたくさんあります。一般的である海底地震津波においては、地震に伴う津波の発生や沿岸・陸上での挙動がよく判っていません。特に海水がない陸上を氾濫する津波の挙動予測はあたかも前例がない道を歩む人の人生予測のように難しい問題です。津波が砕波し、諸構造物へ衝突するときの波力、津波による土砂移動、津波氾濫水の密度、氾濫水密度の津波遡上距離への影響、海岸林の津波減勢、津波漂流物の挙動や衝突力などもよく判っていません。土砂移動や氾濫水密度の遡上距離への影響は古文書などの記録に残されていない歴史津波の規模評価において重要な未解決問題です。
津波の防災・減災には判断し難いこともたくさんあります。防災・減災で対象とする津波の規模はその一例です。対象とする津波の規模には人命、財産、社会・経済活動などを完全に守る、500年~1000年に1度発生する、想定外をつくらないなど様々なものが考えられます。想定外をつくらない規模は何年に1度発生するといった時間特定が難しい規模です。対象とする津波の規模は目的に応じて地域社会や社会全体で話し合って決める必要があると考えます。
よく判らないことや判断し難いことがあっても最新の確かな科学的知見に基づいて津波対策を推進しなくてはなりません。津波事前対策の基本として防潮堤などの「防災施設」の整備、津波予警報などの「防災体制」の強化、高地移転などの「防災まちづくり」があります。これらの対策には安全・安心の継続性を前提として、地域特性に応じた、なおかつ平時でも有効活用され、地域の活性化・発展につながるものが望まれます。津波対策の推進に、工学は欠かせませんが、学問分野にこだわることなく、多くの若い皆さんが積極的に参加してくれることを期待しています。
掲載大学 学部 |
秋田大学 理工学部 | 秋田大学 理工学部のページへ>> |
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 | 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。 これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。 |