生命の最小単位である細胞は、物質産生、情報伝達、成長・分裂など多くの機能を有しています。細胞は、タンパク質、脂質、核酸といった生体分子から構成されています。細胞膜の主成分のリン脂質が自己会合すると、人工細胞膜のリポソームを形成します(図1)。現在、薬剤や化粧品を入れたリポソームが実用化されています。私たちは、直径10-20マイクロメートルの細胞サイズリポソームにタンパク質等の様々な生体分子を加えることで、細胞らしい振る舞いをする人工細胞の創成を目指しています。
図2 分裂する人工細胞
動画 膜の組成が変化する人工細胞
外側の膜をリン脂質、内側の膜を両親媒性タンパク質「オレオシン」で非対称膜ベシクルを作りました。この非対称膜ベシクルに、外部刺激分子としてリゾリン脂質のLyso-PCを加えると、一般的なリン脂質リポソームよりも多くの分裂が観察されました(図2)。
分裂の仕組みは、次のように考えられます。まず、Lyso-PCがベシクルの外側の膜に入り込み、外側の膜が広がります。同時に、内側の膜も広がり、内側の膜にあるオレオシンの密度が低下します。このとき、ベシクル内部の水溶液にオレオシンが残っていると、オレオシンが新たに内側の膜へ入り込みます。その結果、内側の膜の面積も広がり、ベシクル全体の形が不安定になって、最終的に分裂します。一方、一般的なリポソームでは、内部の水溶液にリン脂質を蓄えておくことが困難です。そのため、Lyso-PCによって外側の膜を広げることはできても、内側の膜を同時に広げることはできません。したがって、この非対称膜ベシクルは、一般的なリポソームよりも成長して分裂しやすい構造をもっています。
フッ化物を感知して遺伝子の働きを調節する「リボスイッチ」を利用し、リポソームの内部で酵素を合成しました。この酵素の機能によってリポソーム膜の内側だけが特定のリン脂質に変換させることに成功しました。これにより、リポソーム自身の反応によって、真核細胞の細胞膜に似た非対称な膜構造を形成できました。非対称な膜構造になると膜が緑の蛍光で光ました(動画)。
細胞のような複雑な人工細胞を創るためには、化学や生物学だけでなく医学、薬学、工学等の分野横断的な技術が必要となってきます。最終的には様々な社会問題を解決できる人工細胞が産まれることを期待します。
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