ヒトの体は37兆個もある細胞でできています。細胞内には細胞小器官(オルガネラ)が存在し、それぞれ重要な働きをしています。私たちは人工的に作製した磁性ナノ粒子を、ゴルジ体というオルガネラへ係留することに成功しました。ゴルジ体はタンパク質の糖鎖修飾を行ったり、タンパク質を細胞内の様々なオルガネラへ輸送したりしています。オルガネラへ係留した磁性ナノ粒子は外部磁場で操作できます。このようなナノ材料技術を利用して、細胞内オルガネラを外部磁場で操作し、その機能を解析する新しい研究が始まっています。
図2 表面修飾した磁性ナノ粒子
図3 磁性ナノ粒子が外部磁場で運動する様子
図1.培養したヒト乳がん細胞に、蛍光ラベルした人工の磁性ナノ粒子を細胞質に移行させ、青色蛍光でラベルしたゴルジ体に係留させています。撮影には蛍光検出できる共焦点蛍光顕微鏡を用いました。マゼンタの磁性ナノ粒子が青いゴルジ体のある場所に局在していることがわかります(矢印)。
図2.作製した磁性ナノ粒子を透過型電子顕微鏡で撮影しました。色の濃いコア部分が磁性に反応する酸化鉄で、その周りを被膜が覆っています。磁性ナノ粒子は作製直後は脂溶性で、有機溶媒にしか分散しませんが、有機溶媒は細胞膜を溶かしてしまうため、磁性ナノ粒子を親水性の化学物質で表面修飾し、水に分散する性質を付与しています。透過型電子顕微鏡で表面修飾ができていることが確認できます。
図3.赤色蛍光で表面修飾した磁性ナノ粒子を水溶液に分散させ、磁石を近づけると、磁性ナノ粒子が磁石に引き寄せられて移動する様子が観察できます。動画は共焦点顕微鏡で撮影しました。
磁性ナノ粒子を細胞内オルガネラに係留し、外部磁場を加えることで、細胞内オルガネラを操作できるかもしれません。これまで細胞内で起こる現象は「観察する」ことが中心でしたが、将来は磁性ナノ粒子を利用して細胞内の特定の場所を自由に動かしたり、力を加えたりできるようになる可能性があります。このようなナノ材料技術は、がん治療や遺伝子導入、細胞の組織形成や分化誘導など、さまざまな次世代医療・バイオテクノロジーへの応用が期待されています。
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