現在日本は超高齢化社会に突入しており、政府は従来の施設介護から在宅介護への転換を促しています。しかし、在宅での介護や支援は容易ではなく、テクノロジによる支援が大きく期待されています。私たちは、在宅の高齢者や認知症当事者らを対象として、本人の在宅生活における自助・互助をサポートするための工学的な手法を研究し、それらを一般家庭に導入可能なシステムとして実装しています。今回はそれらのシステムの中から、在宅の高齢者を見守り支援するヴァーチャルエージェント「メイちゃん」について紹介します。
国が進める地域包括ケアシステムは、4つの助、すなわち「自助」「互助」「共助」「公助」に基づき、住み慣れた地域での生活の継続と、地域の支援・サービス体制の構築を行っています。しかし、少子高齢化や財政を考えると「共助」「公助」の拡充は難しく「自助」「互助」を意識した取り組みが一層重要になります。私たちは、工学技術によって在宅の高齢者の「自助」「互助」を支えるスマートシステムの研究を行っています。これまでにもセンサやカメラなど、在宅高齢者を見守る技術は存在してしますが、高齢者の「心のうち」まで観測・認識することはできません。体調や気分、痛みなど、高齢者の行動に伴う心理的な状態(内的状態と呼びます)は、人の健康に直結するため、見守りには重要な情報です。内的状態は、従来、家族による声掛けや、医師の問診・カウンセリングを通して得られますが、これらを経時的に収集・記録する手段がありませんでした。
そこで私たちが注目したのが、ヴァーチャルエージェント(VA)です。VAとは、PCやスマートフォン内で動作し、音声対話や表情、ジェスチャが可能なソフトウェアロボット(チャットボット)です。名古屋工業大学・徳田・李研究室で開発されたVA「メイちゃん」に様々な改造を施し、在宅高齢者に様々な声掛けや質問を行い、内的状態を取得・記録する「こころ」センシング技術を開発しました。メイちゃんはPCやLINEを通して、「よく眠れましたか?」「何を食べましたか?」「水分を取っていますか?」「気分はどうですか?」などの問いかけを行い、高齢者の発話やテキスト入力を記録・蓄積します。これらのデータを活用することで、高齢者本人による内的状態の振り返りや、遠方家族による高齢者の気持ちに寄り添った見守り・支援が可能になります。(図1:VAメイちゃんによる「こころ」センシングサービスの画面)
さらにメイちゃんは、インターネット上の様々な情報やマイクロサービスと連携し、高齢者と外部の資源や支援者をつなぐ役割も果たします。インターネット上のニュースや天気予報、YouTubeによる動画、Googleのカレンダー、ChatGPTによる生成AIなど、高齢者はメイちゃんと対話するだけで、複雑な操作を必要とすることなく、これらのサービスを利用する事ができるようになります。また、メイちゃんは、過去の対話ログを活用して、記憶能力の簡単なアセスメントを行ったり、忘れてしまったことを再び思い出す支援を行ったりすることもできます。(図2:LINEメイちゃんによる「こころ」の見守りサービス)
開発したシステムは、兵庫県三田市や六甲団地の高齢者に実際に利用してもらい、有効性の検証を行っています。我々の研究室では、メイちゃんの機能はさらに充実させ、高齢者一人一人の「こころ」に寄り添った見守り・支援を実現していく予定です。(図3:メイちゃんと会話する高齢者のみなさん)
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