ナガスクジラ科のクジラは、餌の群れに口を開けながら突進する方法で餌を獲ることが知られています。ナガスクジラ科の餌獲りに関する研究の多くは、この突進型の餌獲りに関するもので、他の餌獲り方法についての知見はほとんどありませんでした。そんな中、タイに生息するナガスクジラ科の一種であるカツオクジラは、水面に頭を出し、口を開けて餌が入ってくるのを待つ、一見風変わりな餌獲り様式を取り入れていることがわかりました。
動画1 立ち泳ぎ採餌中のカツオクジラの尾びれの動き
(水中映像)
動画2 立ち泳ぎ採餌中のカツオクジラの胸びれの動き
(水中映像)
地球上で最大の動物シロナガスクジラを含むナガスクジラ科の動物は、突進型の方法(ランジフィーディング)で餌を獲ることが知られています。ランジフィーディングとは、口を開けながら、高密度に分布するオキアミや小魚などの群れに突進する餌獲り方法です。この方法は、口を開けながら高速で遊泳するため、遊泳抵抗が大きく、その結果、たくさんエネルギーを消費すると言われています。これまでのナガスクジラ科の餌獲りに関する研究の多くは、ランジフィーディングに関するもので、他の餌獲り方法についての知見はほぼありませんでした。
ところが、タイのタイ湾に生息するナガスクジラ科の一種であるカツオクジラは、水面で口を開け、餌の小魚が口の中に入ってくるのを待つランジフィーディングとは異なる方法で、餌を獲っていることがわかりました。この風変わりな餌獲り方法を解明するために、目視により詳細な行動観察をし、行動記録計とビデオをクジラに装着しました。目視観察から、まずクジラは口を閉じて頭を垂直に水面に出し、次に水面に下顎を下ろして口を開け、口角だけを水面下に沈め周りの海水を口内へ流し込む水流を作ることがわかりました。その後、数秒から数十秒間その姿勢を維持し、口の中に魚が流れ込んでくる、もしくは魚がジャンプして飛び込んでくるのを待ち、最後に口を閉じ水中へ潜りました。その時の行動記録計とビデオのデータを見てみると、尾びれと胸びれによって姿勢を保っていたことがわかりました。つまりカツオクジラは立ち泳ぎをしながら餌を獲っていた(立ち泳ぎ採餌)のです。タイ湾は富栄養化が進み、水面付近以外は貧酸素な状態となっています。つまり餌の小魚は水面付近にしか生息できません。そのため水面に水平的に分布する小魚に対して、立ち泳ぎ採餌は、効率的であることが示唆されました。さらに、この立ち泳ぎ採餌は受動的な餌獲り様式であるため、餌獲りに必要なエネルギーは、ランジフィーディングに比べて小さいことが考えられました。
カツオクジラの立ち泳ぎ採餌は、ヒゲクジラ類における受動的な餌獲り様式の最初の報告となりました。またこのことは、カツオクジラが様々な環境に対して、柔軟に対応する能力を持つことを意味します。
Iwata T., Akamatsu T., Thongsukdee S., Cherdsukjai P., Adulyanukosol K. and Sato K. Tread-water feeding of Bryde's whales. Current Biology 27: 1154-1155. 2017. doi:10.1016/j.cub.2017.09.045.
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