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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

効率的な列の並び方を考えよう

2025年2月13日
大分大学 理工学部
数理科学プログラム
渡辺 樹(わたなべ いつき)

はじめに

 スーパーやファストフード店などを利用する際、レジに並んで商品を受け取るときに「別の列に並べばよかった…」と感じたことがある方も多いのではないでしょうか。各レジに並ぶ列があり、客がどの列に並ぶかを選ぶことから、このような経験が生まれます。

 一方で、客が1つの列に並び、空いたレジに先頭の客から順番に向かうというサービス方法(例えばスターバックスなど)もあります。では、これら2つの並び方のうち、どちらがより効率的なのでしょうか。今回は、待ち行列モデルという数学的手法を使って、この問題を考えてみましょう。

待ち行列モデル

 待ち行列モデルとは、文字通り「待ち」の現象を数学的に定式化するためのものです。

 先ほど述べたような店での客の待機に限らず、車の渋滞やデータ通信など、日常生活のさまざまな現象に応用できます。今回は、ある店に客が到着し、サービスを受けて退店する過程を待ち行列理論で定式化してみましょう。

レジが1つの場合

 客がいつ到着するか、いつサービスが終了するかは時と場合によって異なるので、これらの事象がどのように起こるかを確率を用いて表現します。具体的には、単位時間あたりで次の2つの事象が起こると仮定します。

  • 確率aで客が来店する
  • 確率bで客がサービスを受けて退店する

 ここで、aとbは0以上1以下の定数とし、a<bが成り立つとします。さらに、簡単にするために、この2つの事象は同時には起こらないと仮定します。このとき、平均待ち客数はどのように計算できるでしょうか?待ち人数がk人である確率をPkとすると、

 が成り立ちます。これを用いると

 が得られます。最後に、すべての確率は合計して1であることを利用すると、

 となり、平均待ち客数は次のように求められます。

レジが2つの場合

 次に、レジが2つの場合を考えてみましょう。客の到着確率は先ほどと同じとします。

 レジが2つ増えることで、客の退店確率が2倍の確率2bになるので平均待ち客数はレジが1つの場合の半分になるように感じますが、これは間違いです。なぜならレジが複数になる場合、最初に述べたように客がどのように並ぶかを考える必要があるからです。ここでは、次の2つの並び方を考えてみましょう。

  • パラレル並び:それぞれのレジに別々の並び列がある(スーパーなど)
  • フォーク並び:客の並び列は1つで、空いたレジに順番に客が向かう(スターバックスなど)

 パラレル並びの場合、それぞれのレジは独立している(一方のレジの状況が他方のレジに影響を与えない)ので、到着した客は1/2の確率でどちらかのレジを選び並ぶことになります。つまり、各レジには確率a/2で客が到着し、退店確率がbの待ち列が2つあることになります。よって、パラレル並びの場合の平均待ち客数は、到着確率がa/2で退店確率がbのときの平均待ち客数の2倍、つまり

 になります。

 一方、フォーク並びでは、並び列は1つでレジが2つなので、確率は次のようになります。

  • 確率aで客が到着する
  • 確率2bで客がサービスを受けて退店する

 ここで、客が1人の場合、必ず1つのレジが空いているため、退店確率はbになることに注意すると、待ち人数がk人である確率Pkは次の式を満たします。

 従って、レジが1つの場合と同様に考えることで、

 が得られます。これらを用いることでフォーク並びの場合の平均待ち客数は

 となります。

効率的な並び方はどちらか

 得られた2つの並び方の平均待ち客数を比較すると、

 つまり、フォーク並びの方がパラレル並びより平均待ち客数が少なく、効率的であると言えるのです。その理由は、パラレル並びでは、片方のレジに客が集中し、もう一方のレジが空いてしまうことがあるからです。しかし、フォーク並びでは並び列が1つであるため、空いているレジに無駄なく客が進むことができ、効率が良いと言えます。同じ理由から、レジに並ぶ時間(平均待ち時間)などの他の指標で考えても、フォーク並びの方が良いシステムだということがわかります。しかし、実際には、客は並んでいる人数が少ないレジを選んで並ぶため、片方のレジに客が偏ることはほとんどありません。さらに、並んでいる人数に応じて「また今度にしよう…」といったように、そもそも並ばない選択をすることもあります。加えて、モバイルオーダーのように、実際には並ばずに指定された時間に商品を受け取る場面も増えてきています。

 このように、より現実的な状況を待ち行列モデルで定式化し、解析することが重要です。皆さんの「待ち」の経験を実際に待ち行列モデルで表現してみるのも、面白いでしょう。

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