皆さんは科学技術という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?スマートフォンをはじめ、家電や自動車など私たちの身の回りに様々な場面で科学技術が利用されています。
ところで皆さんは科学を使ったマジックを見たことがありますか?マジックはトランプのような小さなものから、人を浮遊させたりするなど大きなものがあります。実はこういったマジックには科学技術が多用されているものもあります。私たちは、プロマジシャンのアレマー玉井氏と協力して「科学の原理」「工学技術」を利用したマジックの開発に取り組み、小学校への出前教室や大学のイベントで披露しています。私たちの活動の様子はここ(リンク先:http://www3.u-toyama.ac.jp/scimagic/post/intro/)にまとめてあります。ここでは私たちが開発した2種類のマジックを紹介します。
ここでは2種類のマジックを紹介します。1つ目は「予言ボックス」で、2つ目は「時計マジック」です。実際のマジックの動画も載せているので、マジックの仕掛けを想像しながら観てみてください。
1つ目、予言ボックスというマジックを紹介します。
まずは2021年富山大学夢大学のオンラインマジックショーの動画を見てください。
まず、お客さんに4種類の動物から1つ好きな動物を選んでもらいます。すると、その箱の中に選んだ動物が入っています。
実は予言ボックスの内壁に細工がされており、目の錯覚でタネがバレないようにしています。どんな仕組みになっていると思いますか?
実は予言ボックスの内壁は、家に猫が自由に出入り出来るように作られた「猫ドア」のような扉が作られています。「永久磁石と電磁石の斥力」で扉を開け、「重力」と「永久磁石と電磁石の鉄心との引力」によって扉が閉まる構造になっています。そして、扉が空いたと同時にモノが扉から落ちてきます。
具体的な構造として、扉裏に永久磁石を固定し、予言ボックスの壁の中に電磁石を固定しています。この電磁石に電流を流し、永久磁石との間で発生する「斥力」で扉を開けます。そして、ものが入っている部分が斜面になっていて、扉が開くと重力でものが落ちるような仕掛けになっています。また、電磁石のスイッチをOFFにしている間は、「重力」と永久磁石と電磁石の鉄心との間で発生する「引力」により扉が開けにくくなっているので、箱の傾けすぎや、衝撃が加わらない限り仕込んだものが落ちてくることはありません。
予言ボックスの底には電気回路を入れてあります。中にリレー回路を組み込み、遠隔のリモコンを押すことで4つの電磁石の電源のONとOFFを切り替えることができます。
この電磁石を使った壁を4つの壁に仕掛けることで4種類のものを出せるようにしています。マジックの公演では、お客さんが発言した後にリモコン操作をすることで、あたかも元々箱の中に物が入っていたかのようなマジックを演じることができます。
2つ目は時計マジックです。
まずは2023年の富山大学夢大学のマジックショーの動画を見てください。
お客さんに朝ごはん、昼ごはん、夕ご飯のうち好きな時間を教えてもらいます。お客さんは夕飯と選び、食べた時間を教えてもらいました。すると、頭上にある時計の針はお客さんが食べた時間でした。
この時計は、針の向きを遠隔で制御できるように改造されています。
時計の裏面には、モータと無線で操作できるコントローラが仕込まれており、スマートフォンやパソコンなどの機器から時刻が操作できるようになっています。
マジックの公演では、お客さんに想像してもらった時間を聞いて、その後にスマートフォンに時間を入力し、時計の時刻を変え、見せるというわけです。
具体的にどのような部品を使って、どのような仕組みで、時計を動かしているのかを順に説明します。
まずは、モータです。
よく見かける、直流電圧で動く「DCモータ」では、「どのくらい回せば良いか」、「どこまで回ったか」が、分からなくなってしまい、思った時間の通りに、時計の針をピッタリ止めることは非常に難しいです。
そこで、時計マジックでは、目標の位置で回転を止めることができる「ステッピングモータ」を使おうと考えました。
ステッピングモータとは、回転する部分に永久磁石を使っていて、周りに設置された電磁石のスイッチを順番にオン、オフすることで、回転させているモータです。コピー機や家庭用プリンタなどに使われています。このマジックで使用したステッピングモータは、回転している部分にギアがついており、回転速度を落としてある程度のトルクが出せるようになっています。
次は、時計の針を動かすための仕組みです。
時計の秒針は外してあるので、時針と分針の2つの軸を回転させる必要があります。
まず初めに、「時計の針がずれてしまった時に手動で調整する部分」である「リューズ」を動かす方法を考えました。
このリューズをステッピングモータで回転させる方法では、安価な時計を使っていることもあり、リューズの中に使われているギアの精度が低く、針が動いて欲しいところまで届かないという問題が発生しました。また、この方法だと、12時に針がある状況から6時まで動かす時に、ステッピングモータを6回転させる必要があり、脱調を起こさず回転させるためには、40秒以上かかってしまうという問題点もありました。
そのため、3dプリンタでギアを自作し、2つのステッピングモータで、時針と分針それぞれを動かす方法を考えました。
この方法では、最初の方法に比べて、機構は大きくなってしまいますが、最大で半回転でどの時刻にも変えることができ、ズレがほとんどなく、短時間で動かすことができるようになりました。
次は、回路です。
時計の針を単に動かすだけでなく、マジックの道具として作成する必要があったので、無線で動かす必要がありました。そのため、Wi-FiやBluetoothで通信が行える「esp32」というマイクロコントローラを使っています。マイクロコントローラとは、ステッピングモータなどの、様々な電気機器を制御することができる小さなコンピュータのことです。
このesp32とスマートフォンやパソコンと通信し、何時何分に変更するかの情報を取得して、ステッピングモータの中のどの電磁石をオンオフするかを命令して、目標の時刻で止める方法をとっています。マイクロコントローラは、大きな電流を流すことができないので、直接にステッピングモータの中の電磁石に使われるコイルに電流を流すのではなく、電流を増幅できるトランジスタを挟んで、コイルに電流を流しています。また、esp32は、マイクロコントローラの中でも消費電力が大きく、電池の消耗が激しいのに加え、電圧が下がるとマイクロコントローラが停止してしまうという問題が起こったため、高効率で電圧を変換できるDC-DCコンバータと、一時的に電池からの電流が足りなくなった場合に必要な、予備電源としてコンデンサをつけています。予備電源にしてはコンデンサの容量が小さいので気休めですが、大きなコンデンサがあるだけで安心します。
最後は、プログラムです。
esp32とスマートフォンの通信や、esp32からステッピングモータを動かすためには、esp32にプログラムを書き込む必要があります。
どのようなプログラムかを簡単に説明します。
esp32が、アクセスポイントとなりWi-Fiを飛ばし、スマートフォンと接続できるようにし、スマートフォンから何時何分に動かしたいかの情報を取得できるようになっています。なんらかの問題で、アクセスポイントが停止してしまった場合には、一定時間が経つと、再起動できるようになっています。
ここでは、ステッピングモータを回転させるために、電磁石を2つずつオンオフさせる方式をとっています。そのため、このマジックで使ったステッピングモータを一周させるために、2048回電磁石のオンオフをする必要があります。この数をステップ数と言います。1時間は60分なので、2048を60で割ると34.133…となり割り切れません。針を1分動かすために、34.133…回ステップが必要という事になります。
そのため、何周も回転させていく内に、わずかなズレが蓄積していってしまいます。これを回避するため、12時0分を基準とし、「前回動かした時間から目標の時間までに必要なステップ数」と、「最短距離で動くにはどちらの方向に動かすべきか」を計算することで、ズレがなく速く動くようになります。次に時計を動かすために必要な情報として、何時まで動かしたかを記録しておきます。この情報は電源を切っても保持される必要があるので、電源を切っても消えないメモリに書き込みます。
ただし、何らかの理由で現在の時間がわからなくなってしまう可能性を考えてスマートフォンから手動で12時0分に調整することで、リセットされるようになっています。
また、ギアにはバックラッシュという、遊びの部分が存在します。その遊びがあるために、回転方向が違うと、わずかに針が届かないという現象が起きてしまいます。これを回避するため、反時計回りに回った時は、少しだけ多めに回して時計回りで目標の時刻まで到達させ、全ての回転を擬似的に時計回りで回転させるという方法を取り、これを回避しています。
予言ボックスと時計マジックの仕組みを観てみてどうでしたか?この2種類のマジックでは、電磁気、電気回路、機械設計、プログラミングなどの工学技術を使ってマジックを作りました。ここでは2種類のマジックを紹介しましたが、科学マジックプロジェクトでは他にも「科学の原理」や「工学技術」を利用したマジックをたくさん制作しています。今回の科学マジックの紹介をきっかけに「科学の原理」や「工学技術」を使ったマジック制作に興味を持っていただけたら幸いです。
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