我々人間が生きていく上で、リンという元素が欠かせません。我々は、食べ物等に含まれているリンを体に取り込み日々生活しています。また、農産物の育成に必要な肥料の三要素のうちの一つがリンです。
日本にはリン鉱石が存在しません。そのため、日本ではリンを産出することができず、リンは大変貴重な資源です。現在は、リン鉱石を諸外国から輸入していますが、リン鉱石は有限であり、今後永続的にリン鉱石を輸入できる保証はありません。そのため、輸入されているリンを国内で再利用していくことが重要となります。
人間のおしっこ(以下、尿)には、体から排出されたリン(リン酸イオン)が豊富に含まれています。このリンを尿から回収し、回収したリンを例えば肥料として利用すれば、国内でのリンの再利用に繋がっていきます。しかし、リン酸イオンは極めて小さな物質であり、そのまま回収することは困難です。一方で、リンは特定の条件下で、大きな結晶を形成します。ここでは、リンを結晶化させ、尿からリンを回収する実験について紹介します。
リン酸イオン(HPO42−)は、アンモニウムイオン(NH4+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、水酸化物イオン(OH−)と反応し、水中でリン酸マグネシウムアンモニウムという白色の結晶になります(式(1))。この結晶化を進めるには、結晶を構成する物質が溶かすことのできる限界量(溶解度)以上に尿中に存在している状態(過飽和状態)を形成する必要があります。
HPO42− + NH4+ + Mg2+ + OH− + 6H2O → MgNH4PO4·6H2O + H2O (1)
尿にはリン酸イオンに加え、アンモニウムイオンも比較的豊富に存在していますが(図①)、過飽和状態を形成するには、マグネシウムイオンと水酸化物イオンを尿に加えなければなりません。そこで、にがりの投入によりマグネシウムイオンを、水酸化ナトリウムの投入により水酸化物イオンを、それぞれ尿に加え、尿をゆっくりと混ぜることでリンの結晶化を進めます(図②)。この結果、大きな白色のリンの結晶が多数形成され、尿が白濁化します(図③)。しばらく時間を置くとリンの結晶はコップの底に沈みます(図④)。結晶があまり存在しないコップ上部の尿を捨てることで、底に溜まったリンの結晶が回収できます。
我々が日々トイレに流す尿は、下水処理場に集まります。現在、一部の下水処理場では、尿を含む下水からリンの結晶を回収し(実際の装置では、一般的に装置の底からリンの結晶を回収します)、肥料の原料として販売しています。
宍道湖東部浄化センター:
https://www.pref.shimane.lg.jp/infra/jyoge/kikan/shinjikogesuido/toubujyouka.html
https://www.pref.shimane.lg.jp/infra/jyoge/kikan/shinjikogesuido/toubujyouka.data/tobu-syorikouteizu.pdf
世界での人口が増え続ける現在、農産物の肥料等様々な用途でリンの需要が世界的に高まっています。そのため、下水処理場におけるリンの回収そして再利用が、今後ますます重要になってくると考えられます。
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