新しいクリーンエネルギーとして土壌微生物電池が期待されています。微生物電池とは、微生物の有機物分解を利用して、有機物の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する装置です。
有機系廃棄物の堆肥化において微生物の代謝に伴って電気を発生させるコンポスト型微生物電池、稲を栽培しながら発電を行う植物微生物電池、ヘドロを浄化しながら発電もする堆積物微生物電池、下水や工場廃水を微生物で分解しながら発電を行う微生物電池など、様々な微生物電池があります。ここでは、LEDを点灯させるために必要な電池の性能と身近な材料で作製できる土壌微生物電池の作り方をわかりやすく説明します。
微生物電池の正式な名称は、微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell)です。水素を燃料にして走る究極のエコカーと言われている燃料電池自動車がありますが、その動力の燃料電池も酸化還元反応を利用する電池です。微生物燃料電池は微生物が作った水素を燃料とする燃料電池で、負極(アノード電極)で水素から電子を作り(H2→H++2e-)、正極(カソード電極)で空気から取り入れたO2が電子を消費して(O2+4H++4e-→2H2O)、電子が流れます。
ここでは、土壌微生物電池について説明します(図1)。酸素が少ない土壌の中では、酸素を必要としない嫌気性微生分が活動しています。嫌気性微生物は電子を土の中にある二価鉄などの酸化体に渡します。土の中に埋めたマイナス電極が微生物の排出した電子を受け取って、プラス電極で酸素に電子を渡すことで電子が流れます。このときに、マイナス電極に鉄線を巻くことで、大きな電圧が発生します。二価鉄となって溶けた鉄は電子を増やすだけでなく、土壌の微生物の栄養分にもなります。乾電池は使用した後に廃棄物になりますが、土壌微生物電池の場合、電気が流れた後の土は有機分が分解されて、植物を育てるのにいい土壌改良材として有効利用できます。
乾電池の場合
赤色LEDは約1.8V、青色LEDは約3.0Vで点灯します。ただし、大きな電流(20mA以上)が流れると壊れます。1.5Vの乾電池1個ではLEDは点灯しません。乾電池2個を直列につなぐと3.0Vになりますが、そのまま赤色LEDにつなぐと大きな電流が流れて壊れます。これは、乾電池の内部抵抗が非常に小さく、大きな電流が流れるためです。乾電池の内部抵抗は、小さな電流の場合、ほぼゼロに近いです(電圧低下が起こらない)。そのため、赤色LEDを点灯させるためには、適当な大きさの外部抵抗を取り付ける必要があります。図2にLEDを点灯させるときの電気回路を示しています。理科の授業で、直列回路の場合、どこでも同じ大きさの電流が流れ、回路内の電圧の和は電源電圧と等しいということを習ったと思います。図2の場合、外部抵抗Rには1.2Vの電圧が作用します(V =E -VF =1.2V)。このときの回路内に流れる電流は、抵抗Rの値で決まります。例えば、回路に5mAの電流を流したいなら、R =V /I =1.2*1000 (mV)/5 (mA) =240Ωとなります。数mAでもLEDは点灯するので、その倍くらいの抵抗を用いても いいです。このしくみを理解できたら、他の電源の電圧を用いて、異なる色のLEDを点灯させるのに必要な抵抗を計算することができます。
土壌微生物電池の場合
土壌微生物電池の場合も考え方は同じです。ただし、土壌微生物電池は、乾電池と違って大きな内部抵抗を持っています。土壌微生物電池の電圧と電流の関係の具体的な例を図3に示します。この例の場合、外部抵抗を付けずに、微生物電池の電圧をテスターで測ったときの電圧が最大値の起電力となります。次に、100Ωの外部抵抗を取り付けて、抵抗の電圧を測れば、もっと小さな値となります。これは、内部抵抗が働いて電圧が低下するためです。異なる抵抗を取り付けて、電圧と電流の関係を求めると概ね直線となり、この直線の傾きが内部抵抗rとなります。
それでは、どのようにすれば、土壌微生物電池でLEDを点灯させることができるでしょうか。LEDを点灯させるには、土壌微生物電池1個では電圧が足りません。電極材の面積を大きくすれば、理想的にはそれに比例して電流が大きくなります。複数の土壌微生物電池を並列につないでも同じことが言えます。一方、起電力は電極材の面積を大きくしても増えません。複数の土壌微生物電池を直列につなぐと、その足し合わせとして起電力が大きくなります。例えば、図3の土壌微生物電池を直列で5個つないだ場合を計算してみます。起電力はE=700×5=3500mVとなります。電流の最大値が同じ10mAとすると、内部抵抗はr =3500/10=350Ωとなります。この内部抵抗は、図2の乾電池の回路の外部抵抗に相当します。つまり、赤色LEDを付けると図2の回路を参考に、土壌微生物電池の回路の電圧はE=3500(mV)=1800+350×Iとなり、I=4.9mAの電流が流れることになります。これなら、LEDが点灯します。あくまで理想的な条件なので、実際には電池をたくさんつなぐとロスが生じるので、もっと大きな起電力が必要となります。
電気回路の説明がわからなくても大丈夫です。0.5V以上の起電力の土壌微生物電池を作ることができれば、それを何個直列につなげるとLEDが点灯するか確かめてみてください。おそらく、5V以上の起電力が得られるとLEDが点灯するはずです。LEDを点灯できなくても、土壌の種類による発電性能の違いやサイズの影響などを調べてみるのもおもしろいです。
材料の準備
負極のマイナス電極材は、粒状活性炭を粉体にしたものを用いる。乳鉢でつぶすか、新聞紙に包んでハンマーで叩くと細かくなる。ステンレス線を丸くまとめる。負極に載せるステンレス線が外に出る部分はセロテープを貼り付け、プラス電極材とショート(接触)しないようにする。土はできるだけ空気と触れないようにビニールで密閉して1日以上放置する。このときに、水分が少なければ、水を加える。次に、60gの活性炭粉に飽和食塩水30g(20mLの水に食塩7gを溶かす)を加え、その後にでんぷんのり15gをよく混ぜてペースト状のマイナス電極材を作製する。
電極材料と試料(土)の詰め方
容器に1cmほど土を詰める。土から水がしみ出るようなら、ティッシュで水を吸水させる。その上に、ペースト状の粉体状活性炭を数ミリ程度置く(マイナス電極材)。余分な水は取り除く。40cm程度のステンレス線を丸くまとめて、6cm程度に切った鉄線5~6本に巻き付けた後に、ペースト活性炭の上面に載せる。その上に、さらにペースト活性炭を数ミリ載せる。ステンレス線が上に出る部分は正極に触れないようにセロテープを貼り付ける。空気が入らないように、土を2cmほど被せる。土から水がしみ出るようなら、ティッシュで水を吸水させる。粉体状活性炭を上に薄く敷く。さらに、粒状の活性炭を5mmほど載せる。このときの活性炭は食塩水やでんぷんのりを加えずに乾いた状態のものを用いる(プラス電極には空気が必要)。その上に、丸めたステンレス線を載せる。最後に、ビニール袋に土を少し入れて、正極の上に重りとして載せる。
電圧の測定
土壌微生物電池が完成したらテスターで起電力を測定してみよう。電圧が100mV以下なら内部の接触が悪い可能性がある。通常は、作製した直後でも300mV以上の起電力が発生する。次に、R=10〜100Ω程度の抵抗を取り付けて電圧を測定する。I=V/Rの関係から、電流の値を計算することができる。抵抗がなければ、テスターで電流を直接測定して、概略の内部抵抗を求めることもできる。このときの電流は、電圧がゼロときの最大電流となる(図3)。ただし、テスターで乾電池の電流を直接測ると大きな電流が流れてヒューズが切れ、電流が測定できなくなるので注意しよう。1日経っても電圧が増えなければ、どこかが悪い可能性がある。うまくいけば、500mV以上の起電力が発生する。時間とともに起電力がどのように変化するのかも測定してみよう。
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