チタンは表面の酸化膜の厚さによっていろいろな色に見えることが知られています。一般には、チタンの表面をバーナー等の加熱により酸化膜をつくって色を付けます。しかし、目的の色や同じ色のものを作るのは困難です。そこで陽極酸化を利用し、電圧を制御することによりチタンに好きな色を付けることを試み、図1のようなプレートを作ることができました。そして、子どもものづくり教室等の企画のテーマとすることが出来たので紹介いたします。
陽極酸化の説明の前に、水の電気分解について説明します。図2に水の電気分解と陽極酸化の模式図を示します。
水の電気分解とは、水に電流を流すことによって、水が水素と酸素に分解されることです。図2のように水に入れた2つの電極に直流電圧をかけると電流が流れ、電源のプラス側に接続した電極(陽極)では気体の酸素が発生し、マイナス側の電極(陰極)では気体の水素が発生します。電極には、一般的に白金を使用しますが、これは白金が他の物質と反応しにくいからで、水の電気分解では酸素や水素と反応しにくいからです。
そこで、陽極を白金のかわりに酸素と結びつきやすい物質のチタンにすると、陽極で発生した酸素は気体の酸素にはならず、チタンと結びついて酸化チタンになり、電極に薄い酸化膜を作ります。このようにして陽極の物質の表面を酸化させるのが陽極酸化です。
チタンは金属光沢の銀白色で光を良く反射します。また、酸化チタンは透明で光を良く透過します。チタンの表面に薄い酸化チタンの膜があると、光の干渉によりいろいろな色に見えます。色の違いは、酸化膜の厚さによります。
ここでは、直流電圧で酸化チタンの膜厚を制御して好きな色をつけます。図3に電圧と色の関係、および図4に色が変化している様子を動画で示します。
電圧が高いほどいろいろな色にすることができますが、感電の危険性が高まるので、30Vぐらいまでにしてください。また、電流の上限を設定できるものが安心です。
大きさは自由ですが、大きすぎると全面を同じ色にすることが難しくなります。
今回は、50×100×0.3mmのチタン板を使用します。
白金の代わりに陰極に使用します。今回は色むらを防止するためにステンレスメッシュを使用します。また、陽極のチタン板の固定にもステンレス板(サンプル取付板とよび、大きさは110×20×0.3mm)を使用します。サンプル取付板は、ステンレス板の両端を残すようにして中の部分を絶縁してください。
陽極酸化を行うチタン板が入る大きさの容器を準備してください。今回の容器の大きさは、約90×170×80mmです。
純水は電気が流れにくいので、一般的には少量の水酸化ナトリウムを溶かして使用しますが、今回は一般に販売されているアルカリ電解水クリーナー(商品名:水の激落ちくん)を4倍に希釈して使用します。
チタン板とステンレスのサンプル取付板の間に挟んで、電流を流しやすくします。
チタン板をサンプル取付板に取り付けるために使用します。また、チタン板の色を変えたくないところをマスキングすることにも使用できます。
※セロハンテープでは陽極酸化中にふやけてきて、取れてくることがあります。
チタン板の色を変えたくないところをマスキングするのに使用します。
※油性ペンは短時間であればいいですが、陽極酸化が長時間になるとはがれてしまいます。
修正ペンでの被覆を除去するのと、マスキングを修正するのに使用します。
チタン板が折れ曲がらないように貼りつける板です。チタン板より少し大きいものを用意します。
ベースプレートにチタン板を貼り付けるために使用します。
図5に陽極酸化装置の模式図を示します。
サンプル取付板にチタン板を取り付けます。
ここで、チタン板に電流が流れやすくする工夫をします。アルミホイルを適当な大きさに切り、二つ折りします。それを、チタン板の裏面とサンプル取付板の一方の被覆がされていない部分の間に挟むことで(図6)、チタン板とサンプル取付板の接続が良くなり、電流が流れやすくなります。
そして、梱包用透明テープで固定します(図7)。また、チタン板の裏面に電流が流れないように全面にテープを貼ります。はみ出したテープは切り取ってください。
マスキングと陽極酸化を行います。
チタンそのものの色を残したいところを修正ペンで被覆してください(図8)。梱包用透明テープを好きな形に切って貼っても被覆できますが、陽極酸化を進めていくとにじんでいくことがあります。チタンの色を残さない場合は、マスキングをしないで目的の色の電圧で陽極酸化をしてください(図9)。
陽極酸化をすると徐々に電流値が下がっていき、一定の値になります。電流値が変化しなくなると色の変化もしなくなるので、陽極酸化を終了してください。 目的の色に達しないときは、電圧を少し上げて陽極酸化し、調整してください。
マスキングと陽極酸化を繰り返し、終わったら被覆を取り除きます。
図10 マスキングと陽極酸化の繰り返し電圧の低い色から順に高い色を付けていきます(図10)。電圧の高い色を付けた後は、低い色を付けることはできません。
全ての色を付けたら、被覆とサンプル取付板を外してください。
ベースプレートにチタン板を貼り付けます。
今回のベースプレートは磁石を取り付けています。ベースプレートに両面テープを使ってチタン板を貼り付けます(図11)。これで完成です(図12)。
今回は、電圧の低い色から順に付けていきましたが、電圧の高い色から付ける方法を説明します。チタン板の表面全体をマスキングして色を付けたい部分のマスキングを取り除いて陽極酸化します。順に低い電圧で陽極酸化を繰り返していきます。高い電圧で陽極酸化したところは、低い電圧で陽極酸化しても色はあまり変わりません。図13にそのようにして作製した例を示します。
この作品でのマスキングとマスキングの切り取り方法について説明します。マスキングは、ラバースプレーを使用しました(図14)。ゴムのスプレー塗料で、凹凸のない金属表面に塗布して乾燥したものは、簡単にはがすことができます。切り取りは、レーザー加工機を用いました。予め色の境界を描いたデザインを作成し、チタン板に塗布されたラバーだけを切るようにしました。そして色を付けたいところのラバーを取り除き、陽極酸化を行いました。また、ここでは60Vまで出力可能な直流電源を使用し、さらに色の種類を増やしてカラフルなプレートを作製しました。
チタンをさらに高い電圧で陽極酸化することでいろいろな色を付けることができますが、感電には十分に気を付けてください。また、マスキングの方法は他にもいろいろあると思いますので、チャレンジしてみてください。これを機会に、科学やもの作りに興味を持っていただければ幸いです。
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