化学物質の特定をしたり(定性分析)、特定の物質の濃度を測ったり(定量分析)するときに、光(特に可視光線)を利用することが多くあります。つまり色で物質の種類を区別したり、濃度を測ったりします。色の付いた物質だけでなく、元々は無色の物質であっても、その物質に特徴的な化学反応を利用して何か違う物質と結合させることで、着色させて測定することもできます。ここでは、溶液のpHを色の変化を利用して測定することを紹介します。
pHは水溶液中の水素イオン:H+の濃度の対数をとって負号をつけたものです。
pH = −log[H+] ([H+] はH+の濃度のこと) 式1
つまりpHを測るということはH+の濃度を測ることと同じです。
H+自身は色を持たないため、直接的に色で観察することはできませんが、pHに応じて色の変化を起こす物質(pH指示薬といいます)を用いて、pHの違いを色の変化として観察することができます。pH指示薬にはBTB(ブロモチモールブルー)やフェノールフタレインがよく知られています。この実験ではBTBを用いることにします。BTBは酸性(つまりH+濃度が高いとき)では黄色、アルカリ性(H+濃度が低いとき)では青色になります。これはH+濃度が低い時は解離してH+を水溶液中に放出し、逆にH+濃度が高い時には、H+と結合した(非解離の)構造が安定であるためです。H+自身に色が無くても色を持つBTBという物質を利用してH+の濃度を測ることができます。
ただし、pHが同じでもBTBの濃度によって色の濃さが変化してしまうため、単に色の濃さを測るだけではpHは求まりません。今回は赤色の光と青色の光の両方の光を当てて、その両方の吸光度(下記参照)の比からpHを測定することを紹介します。赤色の光を当てることで溶液の青色成分の吸光度を測り、青色の光を当てることで溶液の黄色成分の吸光度を測ります。
水溶液がどれだけ光を吸収したかを表すために、「吸光度」というものを利用します。
水溶液に当てた光の強度をI0、水溶液を透過して出てきた光の強度をIとしたとき、以下のような式で吸光度Absが定義されます。
Abs = −log(I/I0) 式2
吸光度は光が透過する長さ(セル長、ここでは1cm)や、色を持つ試料の濃度に比例します。(ランベルト-ベールの法則として有名です)なお、以下の実験ではI0として純水を測定したときのIの値を用います。
BTB、いくつかのpHの異なる溶液(図1、今回はpH3.7~10.4の緩衝液を使用)、セル(今回は一般的な分光測定用に用いられる内寸1cm角の角型セルを用いた)、ブロック(図2、今回はダイヤブロック社製ナノブロック®を用いた。セルを中に入れ、LEDやフォトトランジスタを固定するために使った)、青色LED、赤色LED、フォトトランジスタ、電源(電池でも可、LEDを光らせるためと、フォトトランジスタを動作させるためのふたつ)、抵抗、テスター
セルを固定し青色LEDを点灯させたところを図3に示します。テスターを用いてフォトトランジスタに接続した抵抗にかかる電圧を測定します(この値をIとする)。セルに水だけを入れた時(ブランク測定)の値をI0として式2から試料ごとの吸光度を計算します。(この実験で測定している電圧は光量に比例するため、式2の光量の値に当てはめて計算することができます)
pH 3.7~10.4の溶液で測定した結果を表1に示します。二つの異なる波長で測定された吸光度の大小が反対の傾向になっていることが分かります。これは、図4に示す一般的な分光光度計で測定した、可視吸収スペクトルの傾向とよく一致しています。二つの波長で測定された吸光度の比をとると、溶液中のBTBの濃度に関係なくpH(おおよそpH6~10の範囲)を知ることができます(図5)。今回は色素がBTBのみでしたが、いくつかの色素を混ぜて測定を行うと、より広い範囲のpH測定ができるかもしれません。
pHは海洋のみならず河川、湖沼、雨水、水道水などあらゆる水の性質のひとつとして非常に重要なものです。少しの変化でも環境の変化としては、大きな影響をもたらす可能性があります。比較的簡単に測定できる物性ですので、身の回りの水(水溶液)のpHに興味を持ってほしいと思います。
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