蓄熱材の潜熱利用は、エコロジーカイロ(通称:エコカイロ)などで実用化されており、身近なところで体験できます。今回は、エコカイロの材料で用いられる酢酸ナトリウム三水和物を用いて、過冷却の実験を行います。
酢酸ナトリウム三水和物5gと純水0.5mLを試験管に入れます。
試験管をオイルバス(90℃)に浸し、かき混ぜ棒を用いて酢酸ナトリウム三水和物を溶かします。
溶けた酢酸ナトリウム水溶液を自然放熱で室温まで冷まします。(もし熱電対があれば、温度をモニタリングできるので、実験が容易になります。)
酢酸ナトリウム三水和物の粉末を試験管内に落とすと、急速に液相から固相に変化します。図4は、ビデオカメラで撮影したスローモーションの映像です。凝固後は、熱電対の温度が凝固熱で43℃まで上昇しています。
エコカイロとは、使い捨てカイロとは異なり、再利用ができるカイロのことです。凝固する際に熱を放出(凝固熱)し、放熱中は温度が43℃から50℃程度になります。エコカイロは、過冷却の特性を利用しており、溶けた酢酸ナトリウム三水和物に物理的な刺激を与えることで、凝固が開始します。
図5に酢酸ナトリウム三水和物の温度変化の一例を示します。横軸は時間で縦軸は放熱時の温度です。自然放熱のため、酢酸ナトリウム三水和物の温度は、時間経過とともに低下しています。酢酸ナトリウム三水和物の融点は約57℃ですが、図中の500秒から800秒までは融点を下回っても液体の状態でした。この状態を過冷却といいます。過冷却では、原材料の融点より温度が下回っても凝固しない不安定な状態のことを指し、凝固のきっかけとなる核を強制的に与えることで、凝固熱を放出します。そのため、図中の800秒以降では、凝固が開始し融点の温度(約57℃)まで上昇しています。凝固熱の放出が終わると、図に示すように酢酸ナトリウム三水和物の温度は少しずつ低下します。
このようにエコカイロでは、過冷却と凝固熱の特徴を上手く利用しており、昇温と放熱を繰り返すことで再利用が可能になります。エコカイロのような蓄熱技術は、産業界でも応用され研究開発が進められています。凝固熱は蓄熱材料によって異なるため、産業界では用途に応じて蓄熱材料を選定し、排熱温度に適した仕様で設計され幅広く利用されています。
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