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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

入浴剤の作製を通して操作とプロセスについて考えてみよう

2020年9月25日
岡山大学工学部 化学生命系学科

はじめに

 お風呂の中に入れると泡が出る入浴剤は、ホームセンターなどで入手できる重曹とクエン酸からつくることができます。この「入浴剤の作製」は小学生向けの実験教室などでも題材となっており、誰でも同じものを作ることができるように思えるのですが、原料である重曹もクエン酸も固体であり、作製途中での固体の状態変化は複雑です。このため、できあがった入浴剤の「機能」、「性能」である泡の出方は作り方(操作とその条件)に依存し、泡の出方を「制御」しようとするとなかなか難しい題材になります。

 ここでは、この「入浴剤の作製」をひとつの「プロセス」として捉え、プロセス中での「操作とその条件」と、製品の「機能」、「性能」との関係に着目して説明します。

準備するもの

原材料

  • 重曹(粉)
  • クエン酸(粉)
  • エタノール(液)
  • バニラオイルなどの香料(液)
  • 食紅(粉)

使用する器具

  • 乳鉢
  • ラップ

入浴剤作製手順

  1. 重曹(大さじ1杯)とクエン酸(大さじ1杯)を乳鉢に入れます。
  2. 好みに応じて食紅(適量)を乳鉢に入れて、すりつぶしながらよく混ぜます。
  3. エタノール(0.5~1mL)と、お好みでバニラオイルなどの香料(2~3滴)を②に加えてよく混ぜます。
  4. 準備した型に③を入れます。
  5. すべて型に入れたら、しっかりと押して固めます。
  6. 型から出して1日くらい乾燥させれば完成です。

各操作の意味を考えてみよう

2.好みに応じて食紅(適量)を乳鉢に入れて、すりつぶしながらよく混ぜます。

「すりつぶしながら混ぜる」を工学的な言葉で表現すると、「粉砕」「混合」となります。

「混合」だけであれば・・・

 という操作で目的は達成します。よって、入浴剤を作る上では「粉砕」によって生じるメリット(=優位性)が重要であると考えられます。

「大きな固体を細かくする」という粉砕操作は、図に示したように、大きな物体をいくつかの部分に「分ける」ことに相当します。大きなものを小さく分けると、新しい分かれ目、すなわち、新しい表面が現れます。分けているだけなので、全体の量(質量、体積)は変わりません。

 全体の量が同じで「表面が増加する」ことは、固体が周りの他物質と接触する面が増加することを意味します。周りの物質が気体や液体であれば、周りの物質の分子と接触できる固体の表面積が増加することになり、その分子と固体が反応する場合には反応の促進につながります。ただし、全体の量は変わらないので、反応する量は変わりません。反応の進行が速くなると考えられます。

 また、周りに固体があれば、固体との接触点が増えることになります。この固体間接触点の増加は、固体間の反応を想定した場合にも反応性の向上につながります。反応しない場合には、固体粒子の特徴である「粒子間相互作用力」の作用点数が増加することになります。乾燥した粒子間での 「粒子間相互作用力」は引力で、「付着力」となります。粒子間に液膜が形成されたときには「液架橋力」と呼ばれる引力が粒子間に作用します。接触点数の増加により、これら粉体全体に働く粒子間相互作用力は増加します。

5.すべて型に入れたら、しっかりと押して固めます。

「押して固める」を工学的な言葉で表現すると、「圧縮」「成形」となります。

「圧縮」は粉体の各粒子に外力を加える操作なので、粒子は外力により移動します。移動した後に粒子間相互作用が引力として作用し、その力が重力よりも大きければ、移動した位置で粒子は静止し、形が維持されます。これが「成形」です。

 つまり、成形には粒子の移動と粒子間相互作用力が必要です。

 相互作用力に着目して、手順⑤と

6.型から出して1日くらい乾燥させれば完成です。

 を見てみると・・・

 となります。

 この成形後の粒子間相互作用まで考慮して

2.好みに応じて食紅(適量)を乳鉢に入れて、すりつぶしながらよく混ぜます。

 を考えると、粉体の操作条件

操作条件を変えて入浴剤を作ってみると・・・

 実際に操作条件を変えて入浴剤を作ってみると・・・

 このように、操作条件を変えると製品(入浴剤)の機能(反応の進行による発泡状態)を変えることができます。つまり、プロセスの操作(=作り方)により、製品機能を制御できます。

おわりに

 入浴剤は、重曹とクエン酸の水中での反応、

 を利用しており、水に入れて発生する泡(=気体)は二酸化炭素(CO2)です。このように「化学」の知識を使うと、物質がどのように変化し、何が生じるのかがわかります。しかし、入浴剤(製品)としての機能、性能である泡の出かた(=反応の進行)はこの知識だけでは予測できず、作り方(=操作とその条件)も考える必要があります。

 工学の中に「化学工学」という分野があります。「化学工学」は、化学プロセスを“単位操作”の集合と捉え、化学プロセスを工業化するときに必要な技術が何であるかを明らかにし、それらのエッセンスを整理し、体系化し、化学工業をはじめとする広範囲の分野に適用できるようにした工学体系とされています。わかりやすく言うと、作り方も考えて、化学製品の機能を設計、制御する時に使える学問分野です。

 この「入浴剤の作製」を通して、工学の化学系にはこのような分野もあることを覚えていただき、工業製品では物質だけでは決まらない性質、性能が重要となり、そのような性質、性能の制御には作り方が重要となることを理解していただけると幸いです。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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