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ギブスの現象を消す方法 —数値実験—

2020年1月31日
神戸大学 海事科学部

序論

 情報を処理・伝達するためには、データとして取り扱う必要があります。画像や音声などの情報は、しばしば関数として与えられますが、関数そのものは無限個のデータで構成されています。しかし、現実には有限個のデータしか扱えませんので、いかにして関数を有限個のデータで把握するかということが重要な問題となります。

 ここでは、与えられた関数が周期関数の場合に焦点を絞り、それを有限個のデータで近似するための有効な手段であるフーリエ級数について考察しましょう。

 周期 2π の周期関数 f(x) が与えられているとします。このとき、

をf(x) のフーリエ係数と言い、これらからつくった級数

をf(x) のフーリエ級数と呼びます。この級数を第n 項までで打ち切ったもの、すなわち

をフーリエ級数の部分和と呼びます。

 フーリエ級数の部分和は、最小2乗法の意味で最良ですので、平均的には、もとの関数を精度良く近似していると言えます。しかし、各点x において関数値を精度良く近似するとは限りません。特に、不連続関数に対して、不連続点の前後で余分な振動が引き起こることが昔からよく知られていて、この現象を「ギブスの現象」と言います。

ギブスの現象について

 最も単純な例として方形波を考えましょう。すなわち、

とします。このとき、フーリエ係数を計算すると、

となります。したがって、

となります。下の図1~図4 は、それぞれ、n = 1、3、5、7 のときのSn(x) をf(x) と重ねて描いたグラフです。

図1 S1(x) のグラフ
図2 S3(x) のグラフ
図3 S5(x) のグラフ
図4 S7(x) のグラフ

 グラフから分かるように、確かに不連続点x = 0 の近くに余分な振動があります。nを大きくすると、Sn(x) のグラフは平均的にはf(x) のグラフに近づいていきますから、余分な振動も解消されると予想されるでしょう。そこで、試みにn = 99 の場合のグラフを図5 に描いてみましたが、依然として余分な振動は残されています。

図5 S99(x) のグラフ図5 S99(x) のグラフ

 さて、ギブスの現象を緩和するために、従来から様々な方策が考案されてきましたが、それらはいずれも、フーリエ級数の部分和を、

という形の有限和で代用するというアイディアです。この式のθn(k) をどう決めるが、問題の核心です。(θn(k) = 1 とした場合が通常のフーリエ級数の部分和です。)

 よく知られている方法として、

とおくものがあります。右辺はランチョスのシグマ因子と呼ばれているものです。これを用いることによってギブスの現象は大きく緩和されるものの、完全には解消されないことも知られています。

 ギブスの現象が全く起こらない方法として最もよく知られているのは、

とおくものです。この場合のTn(x) はフェイェールの和と呼ばれています。しかし、近似精度という観点で、これは最適ではありません。

 そこで、ギブスの現象が全く起こらないという制約条件のもとで、近似精度が最良となるようにθn(k) を決定すると、

となることが明らかになっています。このようにおいた場合のTn(x) を以下ではKn(x)で表します。

数値実験とグラフ

 話を簡単にするために、f(x) = sign(x) の場合のみについて数値実験をしてグラフを作成しました。 n = 9 のときと、n = 29 のときについて、それぞれ、Sn(x) とKn(x)を、図6~図9 に示します。

図6 S9(x) のグラフ
図7 K9(x) のグラフ
図8 S29(x) のグラフ
図9 K29(x) のグラフ

 いずれの場合でも、Sn(x) ではギブスの現象が起こるのに対し、Kn(x) ではギブスの現象は全く起こらず、しかもn を大きくすると近似精度が高まることもグラフから読み取れます。

 以上のように、数学的理論の正しさを、具体的な数値計算によって確認する作業を「数値実験」と呼びます。ここで取り上げた数値実験については、皆さんが普段よく使用するエクセルなどの表計算ソフトウェアでも、グラフの作成は簡単にできます。ぜひ一度、トライしてみてください。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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