水は生命を支える重要な化学物質であり、日常生活の中で気体、液体、固体の三態を見ることができる数少ない物質でもあります。その中で水を冷やして氷を作ることは誰もが経験しているでしょう。
ところで、水は何℃で凍りますか?
この実験に炭酸入りの水は絶対に使わないでください。ペットボトルが破裂する可能性があり、極めて危険です。
ペットボトルの半分くらいまで水を入れ、冷凍庫で冷やします。非接触式の温度計があれば、一定の時間毎に温度を測ってみましょう。
温度変化のスピードは冷凍庫の能力や水の量などによって大きく変わります。この実験で使った冷凍庫では、温度を測るために頻繁に開け閉めしたこともあり、500 mLペットボトルに半分ほど入れた水を0℃まで冷やすのに1時間ほどかかりました。この水の温度は最終的に-1.6℃まで下がりました。本来ならば凍っているはずの温度なのですが、完全な液体で全く氷が見当たりません。0℃になったのに凍らないってちょっと変ですね。
このペットボトルをゆっくりと取り出して、1回だけ激しく振ってみましょう。ペットボトルの中の水が一瞬で凍り、シャーベット状になります。写真は映像から切り出した凍る瞬間です。
この実験は、冷凍庫の中で水が凍ってしまったら失敗です。ペットボトルをいくつか用意して、冷やす時間を変えて試してみましょう。冷凍庫に温度調整機能がついていれば、「弱」に設定してなるべくゆっくり冷やすのが成功するコツです。
ちなみに、筆者はスポーツ飲料を早く冷やそうと冷凍庫に入れ、冷えた後取り出して蓋を開けたとたんに凍ったことがあります。これも同じ現象なのですが、危ないのでこの実験はしないでください。
薄く氷を張った金属ボウルに実験1と同様にして作った0℃以下の水を垂らしてみましょう。氷の上に落ちた水が次々と凍り、シャーベットが積み上がっていきます。
この写真や映像は-1~-2℃程度なので氷になりきれなかった水がたまっていますが、もっと温度を下げることができれば綺麗なシャーベットの柱を作ることができます。
水をゆっくりと冷やしていくと、温度が0℃以下になったにもかかわらず液体状態のままであることがあります。これを過冷却といい、水が凍ろうとしているのですが、きっかけがつかめず、液体のままでいる状態なのです。過冷却は不安定な状態なので、何らかの刺激を受けると安定な氷になります。一度氷ができると、それも新たな刺激になって一斉に凍っていきます。
実験1は過冷却状態の水に衝撃という刺激を与えた結果です。水がペットボトルの壁にぶつかる衝撃で一斉に氷になろうとするため、一瞬でシャーベット状に変わるわけです。この実験は、ペットボトルを時々冷凍庫から取り出して振ってみて、凍らなかったらまた冷凍庫に戻せば何度でも挑戦できます。
実験2は次々に滴下される過冷却状態の水がその刺激で凍っていく現象です。失敗すると準備からやり直しとなるため、ちょっとだけ難易度が高いです。ボウルの底面にあらかじめ氷を作っているのは、実験の間ボウルの底面の温度を0℃以下に保つためで、よく冷えた肉厚のボウルで素早く実験を行うのであれば必要ありません。この実験を行う時は2本のペットボトルを用意し、1本で実験1を行って過冷却状態であることを確認してから2本目で実験2に挑戦、と段階を踏むのが良いでしょう。
水は0℃でも凍らないことがある、というのがこの実験の結論です。ただし、これは過冷却という特殊な状態であって、水の凝固点(物理学的に水が凍る温度)は0℃で間違いありません。
水にはまだまだ知られていない特性がたくさんあり、今でも多くの研究者が研究を続けています。このおもしろ科学実験室でも水についての実験がいくつかありますが、この過冷却の実験を含めて水の持つ特性のごく一部に過ぎません。これからも、新しい水の特性を発見した!というニュースが世界を賑わすでしょう。
横山 晴彦、「過冷却水とその構造」、横浜市立大学論叢自然科学系列、Vol.62、No. 1・2、pp. 11-34 (2012).
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