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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

土は汚染物質を除去する環境浄化剤

2019年2月22日
岡山大学 環境理工学部

はじめに

 皆さんの足元にある土壌は、日常の中では何の役にも立たないただの土くれに見えるかもしれません。雨が降れば靴や服が汚れるし、いいことがありません。でもこの土にはとても不思議な力があって、環境を汚す汚染物質を吸着・除去してくれる働きがあります。

 ここでは、ある国の工場の煙突から盛んに煙が出て、酸性雨というものが地面に降ってきたことを想定した実験を行います。土は細かくなった岩石ではなく、粒径に応じて砂・シルト・粘土という名前がついています。このうち粘土は粒径が2μm以下で比表面積が大きくて化学的活性度が高く、さらにマイナスの電荷を帯びているため特に陽イオンを効果的に吸着する働きがあります。酸性雨に対して土壌がどのように働くのか見てみましょう。

しくみ

 前述のように土には粒径の違いがあって、粒径が2μm以下のものを粘土と呼んでいます。粒径が小さく化学的な反応性が高いことが特性の一つです。さて、この粘土ができていく過程で、4価の珪素(Si)を中心とする四面体構造と3価のアルミニウム(Al)を中心とする八面体構造ができます。この段階では電気的に中性ですが、4価の珪素の代わりに3価のアルミニウムが、3価のアルミニウムの代わりに2価のマグネシウムが結晶構造に入り込むことがあり、結晶構造の中でつなぎ相手を失ったマイナスの電荷が粘土の中で発生してきます。このため、粘土は基本的にマイナスの電荷を帯びており、化学的反応性が高く、陽イオンを吸着しやすいことが大きな特徴といえます。

 今回の実験は、粘土が酸性雨の中に含まれる陽イオン(酸性つまりH+)を吸着できる特性を利用しています。*

* 酸と塩基の実験に結びつけるためにわかりやすい表現を用いていますが、窒素降下物など、酸性の発現にはもう少し複雑なプロセスを含みます。

図1 粘土ができるときに発生する置換図1 粘土ができるときに発生する置換

用意するもの

  1. pH計
  2. 実験試料(水、砂、粘土**)
  3. 試薬として0.1mol/L塩酸溶液***を50mL
  4. 100mLビーカー3個
  5. 攪拌用ガラス棒(3本)
  6. 試薬を入れる50mLビーカーと1mL注射筒
  7. 試料液採水用のスポイト
    (互いに汚染をさせないように必ず試料数と同じだけ、本実験の場合3つ)
  8. 廃液溜め

**粘土は農家の方にお願いをして田んぼから少しもらう、または、水たまりの一番上の土を採ろう。砂は運動場や川・海岸から少量だけ気をつけて採ろう。
***理科実験室で実験することを想定して、塩酸を使ったが、用意できない人は酢を使っても同じような実験ができる。酢の場合はそのまま使う。

図2 用意するもの図2 用意するもの

実験の方法

  1. 砂、粘土を各30gずつ用意する。

  2. 土壌30gに対して蒸留水75gを注ぐ。水の密度は1g/cm3と見なして良い。
    また、比較用に蒸留水75gを用意する。
    まず、初期状態の溶液のpHを計測しておく。

  3. 0.1mol/L 塩酸を一部50mLビーカーに移し、1mLシリンジを使って、0.2mLずつ砂溶液、粘土溶液、および蒸留水に滴下する。30秒攪拌し、静置して2分後にpHの計測を行う。

  4. 0.2mL、0.3mL、0.5mL、1mL、1.5mL、2mL と加えていき、合計7.5mLになるまで塩酸を加えていく。

  5. 実験が終わったら、グラフを書いてみる。横軸に塩酸の滴下量、縦軸にpHを取る。

解説

図3 酸性雨の影響図

 どんな図が描けたでしょうか。図は一例ですが(あえて答えになりそうな図は掲載しません。自分で確かめよう)、池や湖に酸性雨が降ったときには極端な影響が出ることを示しています。中和滴定で習ったように、中性付近の変化は急です。また、同じ土でも砂は酸性雨の影響を軽減することができないことがわかります。一方、粘土溶液はなかなかpHが変わらず、先に説明した特性のおかげで酸性物質を自らに吸着し、環境におけるpHの変動を和らげていることがわかります。pHが1違うとは、水素イオン濃度が10倍違うことを示しています。土壌といっても、粘土や砂といった構成が異なると環境変動を抑える力が大きく違うことがわかるでしょうか。

発展学習

  1. ドイツでは近隣の国で発生した酸性雨の影響で森の木々が枯れてしまったり、生物がおらず異常に透明度が高い湖ができてしまったことがありました。あまり報道されませんが酸性雨は日本でも降っています。それでも川の水が酢になったなどという事件が起こらないのは、土壌が環境負荷物質を吸着しているからに他なりません。足下の貢献者に感謝しよう。
  2. 高校生はpHの計算ができると思います。水に塩酸を滴下しているときの状態はpHの変化を妨げるものが何もない状態ですから最終的なpHは計算結果と近い値になると思います(なります)し、濃度という言葉を正しく理解しているかどうかのチェックにもなります。やってみよう。
  3. よく見ると溶媒には蒸留水を使ったにもかかわらず、実験の最初のpHは7から始まっていないと思います。なぜだか考えてみよう。

実験を指導される方へ

  • 土壌を使った水の濾過はみたことがあるかもしれませんが、本実験は粘土がマイナスの電荷をもつ特性を利用しており、陽イオンの除去に一歩踏み込んでいます。従って電荷をもつ粘土と持たない砂で違う結果になり、専門的な結果が得られます。
  • 中和滴定を知っていれば見たことのあるグラフが出てきて、形状の確認がしやすい。また、水についてはpHを計算すれば実験結果と一致するようになっています。
  • 酸性雨という環境問題に踏み込み、環境科学入門を意識しています。
※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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