トップページ > おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界) > 電池からもっと大きな電圧を出してみよう!

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

電池からもっと大きな電圧を出してみよう!

2018年1月12日
鹿児島大学 工学部

はじめに

この実験では、コイルで発生する自己誘導起電力とコイルがエネルギーを蓄える作用を利用して、乾電池1本からそれより大きな電圧を発生する装置を作ります。作った回路を使って直流モータを回して、乾電池1本を直接つないだときよりも速くモータが回転できれば成功です。この技術は、電気自動車やハイブリッド自動車でエンジンの代わりに使われるモータを回すための装置にも利用されています。

用意するもの

用意するもの
  1. ブレッドボード
  2. 単三乾電池1本用電池ホルダーと単三乾電池(充電式1.2 V)
  3. コイル(インダクタンス1.3 mH)
  4. ダイオード(40 V、5 A)
  5. MOSFET(100V、10 A)
  6. 電解コンデンサ(100V、15 F)
  7. 直流モータ FA-130RA-2270
  8. ファンクションジェネレータ
  9. 回転計
  10. テスタ
  11. ジャンパ線各種

※( )内の数値は今回の実験で使った素子のものです。参考にしてください。

回路を作る

  1. ブレッドボード上に、図1の回路を作ります(図2)。
    単三乾電池は直流モータを回す直前にホルダーにセットしますので、回路を作るときはホルダーから外したままにしておいてください。
    ダイオードのアノード(A)とカソード(K)、MOSFETのゲート(G)、ドレイン(D)、ソース(S)の端子の位置を確認してから接続してください。ファンクションジェネレータから出る線のうち、出力信号の線(図2の赤の線)をMOSFETのゲート(G)に、グラウンド(図2の黒の線)をMOSFETのソース(S)に接続してください。
    電解コンデンサにはプラスとマイナスの向きがあります。プラスとマイナスの極性を間違えて接続すると、素子が破壊されケガをする恐れがありますので十分に注意してください。
    テスタは、直流モータの端子電圧を測定するように接続してください。

    図1 作製する回路の図

    図1 作製する回路の図

    図2 ブレッドボード上に作製した回路

    図2 ブレッドボード上に作製した回路

  2. 図3 反射テープの貼りつけ方

    図3 反射テープの貼りつけ方

    モータの軸に取り付けられたプーリーの表面に、回転計で速度を計測するための反射テープを貼りつけておきます(図3)。

  3. 図4 実験装置の全体写真

    図4 実験装置の全体写真

    実験装置の全体写真は図4のようになります。ここにあるオシロスコープは、ファンクションジェネレータの出力信号波形を確認するためのものです。今回の直流モータをより速く回すための装置としては必ずしも必要なものではありません。

実験

  1. 図5 ファンクションジェネレータの出力信号波形(オシロスコープで観測)

    図5 ファンクションジェネレータの出力信号波形(オシロスコープで観測)

    ファンクションジェネレータの出力信号波形を方形波にして、振幅10 V、周波数10 kHz、1周期のうち10 Vと-10 Vになる時間の割合が1:1になるよう設定します(図5)。

  2. 図6 作製した回路で直流モータを回した時の結果

    図6 作製した回路で直流モータを回した時の結果

    単三乾電池をホルダーにセットすると直流モータが回転します。テスタで直流モータの端子電圧をみると約1.9 Vを示し、単三乾電池1本分の電圧(1.2 V)より高くなっています。また、回転計で直流モータの回転速度をみると1分間に約10000回転しています。

  3. 図7 単三乾電池1本だけで直流モータを回した時の結果

    図7 単三乾電池1本だけで直流モータを回した時の結果

    単三乾電池1本だけで直流モータを回してみると、直流モータの端子電圧は約1.2 Vで、回転速度は1分間に約6900回転しています(図7)。
    このことから、今回の実験で作った回路によって、単三乾電池1本だけで回すよりも1.5倍近く速い速度で直流モータを回すことができたことがわかります。

原理

今回作製した回路(図1)は昇圧チョッパまたは昇圧形コンバータとも呼ばれ、入力電圧より高い出力電圧を得ることができる回路です。直流モータの回転速度は、モータに印加される電圧に比例して速くなります。昇圧チョッパを利用して単三乾電池1本の電圧より高い電圧を作り出すことで、直流モータの回転速度を早くできます。
ここでは、昇圧チョッパの動作原理を説明します。

  1. MOSFETは電力用半導体素子と呼ばれるものの一種で、この回路ではスイッチとして働きます。MOSFETのゲート(G)に正の電圧を加えるとスイッチオン、負の電圧を加えるとスイッチオフの動作をします。今回の実験ではゲート(G)に方形波の信号を与えましたが、そのうちの10 Vのときスイッチオン、-10 Vのときスイッチオフとなっています。
    また、直流モータと並列に接続しているコンデンサは十分に大きいものとします。

  2. 図8 スイッチがオンの時の等価回路

    図8 スイッチがオンの時の等価回路

    MOSFETがオンされると、ダイオードの作用によって回路は等価的に図8のようになります。MOSFETはスイッチとして働きますので、ここではスイッチで図を描いています。このとき、コイルには電源電圧が直接印加されエネルギーが蓄えられます。

  3. 図9 スイッチがオフの時の等価回路

    図9 スイッチがオフの時の等価回路

    MOSFETがオフ(スイッチがオフ)されると、コイルには自己誘導起電力が発生し、コイルに蓄えられたエネルギーが放出され、直流モータに電流が流れます(図9)。このとき、コイルで発生した自己誘導起電力が電源電圧に加わってモータに印加されるため、入力電圧より高い出力電圧を得ることができます。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

関連記事

2022-01-28

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

オペアンプで周囲の明るさを一定に保つランプを作ってみよう

鳥取大学工学部

2021-04-19

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

光移動ロボットの仕組みとその作り方

三重大学工学部

2016-12-09

Pict-Labo

準結晶の原子配列

秋田大学理工学部

2023-04-14

生レポート!現役学生の声

電気電子工学科での4年間

山梨大学工学部

2020-01-17

生レポート!現役学生の声

理工学部で学ぶことの魅力

群馬大学理工学部

2012-10-24

生レポート!卒業生の声

役に立つということ

金沢大学理工学域

鹿児島大学
工学部

  • 先進工学科 機械工学プログラム
  • 先進工学科 電気電子工学プログラム
  • 建築学科 建築学プログラム
  • 先進工学科 化学工学プログラム
  • 先進工学科 海洋土木工学プログラム
  • 先進工学科 情報・生体工学プログラム
  • 先進工学科 化学生命工学プログラム

学校記事一覧

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)
バックナンバー

このサイトは、国立大学56工学系学部長会議が運営しています。
(>>会員用ページ)
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。
これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。