この実験では、コイルで発生する自己誘導起電力とコイルがエネルギーを蓄える作用を利用して、乾電池1本からそれより大きな電圧を発生する装置を作ります。作った回路を使って直流モータを回して、乾電池1本を直接つないだときよりも速くモータが回転できれば成功です。この技術は、電気自動車やハイブリッド自動車でエンジンの代わりに使われるモータを回すための装置にも利用されています。
※( )内の数値は今回の実験で使った素子のものです。参考にしてください。
ブレッドボード上に、図1の回路を作ります(図2)。
単三乾電池は直流モータを回す直前にホルダーにセットしますので、回路を作るときはホルダーから外したままにしておいてください。
ダイオードのアノード(A)とカソード(K)、MOSFETのゲート(G)、ドレイン(D)、ソース(S)の端子の位置を確認してから接続してください。ファンクションジェネレータから出る線のうち、出力信号の線(図2の赤の線)をMOSFETのゲート(G)に、グラウンド(図2の黒の線)をMOSFETのソース(S)に接続してください。
電解コンデンサにはプラスとマイナスの向きがあります。プラスとマイナスの極性を間違えて接続すると、素子が破壊されケガをする恐れがありますので十分に注意してください。
テスタは、直流モータの端子電圧を測定するように接続してください。
図1 作製する回路の図
図2 ブレッドボード上に作製した回路
図3 反射テープの貼りつけ方
モータの軸に取り付けられたプーリーの表面に、回転計で速度を計測するための反射テープを貼りつけておきます(図3)。
図4 実験装置の全体写真
実験装置の全体写真は図4のようになります。ここにあるオシロスコープは、ファンクションジェネレータの出力信号波形を確認するためのものです。今回の直流モータをより速く回すための装置としては必ずしも必要なものではありません。
図5 ファンクションジェネレータの出力信号波形(オシロスコープで観測)
ファンクションジェネレータの出力信号波形を方形波にして、振幅10 V、周波数10 kHz、1周期のうち10 Vと-10 Vになる時間の割合が1:1になるよう設定します(図5)。
図6 作製した回路で直流モータを回した時の結果
単三乾電池をホルダーにセットすると直流モータが回転します。テスタで直流モータの端子電圧をみると約1.9 Vを示し、単三乾電池1本分の電圧(1.2 V)より高くなっています。また、回転計で直流モータの回転速度をみると1分間に約10000回転しています。
図7 単三乾電池1本だけで直流モータを回した時の結果
単三乾電池1本だけで直流モータを回してみると、直流モータの端子電圧は約1.2 Vで、回転速度は1分間に約6900回転しています(図7)。
このことから、今回の実験で作った回路によって、単三乾電池1本だけで回すよりも1.5倍近く速い速度で直流モータを回すことができたことがわかります。
今回作製した回路(図1)は昇圧チョッパまたは昇圧形コンバータとも呼ばれ、入力電圧より高い出力電圧を得ることができる回路です。直流モータの回転速度は、モータに印加される電圧に比例して速くなります。昇圧チョッパを利用して単三乾電池1本の電圧より高い電圧を作り出すことで、直流モータの回転速度を早くできます。
ここでは、昇圧チョッパの動作原理を説明します。
MOSFETは電力用半導体素子と呼ばれるものの一種で、この回路ではスイッチとして働きます。MOSFETのゲート(G)に正の電圧を加えるとスイッチオン、負の電圧を加えるとスイッチオフの動作をします。今回の実験ではゲート(G)に方形波の信号を与えましたが、そのうちの10 Vのときスイッチオン、-10 Vのときスイッチオフとなっています。
また、直流モータと並列に接続しているコンデンサは十分に大きいものとします。
図8 スイッチがオンの時の等価回路
MOSFETがオンされると、ダイオードの作用によって回路は等価的に図8のようになります。MOSFETはスイッチとして働きますので、ここではスイッチで図を描いています。このとき、コイルには電源電圧が直接印加されエネルギーが蓄えられます。
図9 スイッチがオフの時の等価回路
MOSFETがオフ(スイッチがオフ)されると、コイルには自己誘導起電力が発生し、コイルに蓄えられたエネルギーが放出され、直流モータに電流が流れます(図9)。このとき、コイルで発生した自己誘導起電力が電源電圧に加わってモータに印加されるため、入力電圧より高い出力電圧を得ることができます。
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