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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

小麦粉で火山を作ろう

2017年8月25日
秋田大学 国際資源学部

火山の形とマグマの粘り気のこと

 中学校の理科の時間に、「テストに出るから暗記しろ」と言われて苦しんだ思い出がある人も多いでしょうから、表題をみて「読む気が失せた!」などと感じられるかもしれません。しかし、ちょっとだけ我慢してください。今日の話は「実験をしたら教科書のとおりになった。パチパチ、めでたしめでたし」という、よくあるお約束の話ではないのです。

図1.火山の形とマグマの粘り気の関係:中学校理科で学ぶ典型的な説明

図1.火山の形とマグマの粘り気の関係:中学校理科で学ぶ典型的な説明

 さて、中学校理科の教科書や参考書では、図1のような説明を目にします。ちょっとインターネットで調べてみると、このような図がたくさん見つかります。みなさんこのように教わって、覚えた人も多いですよね。でも、これを覚えるときに納得して覚えましたか?違和感はありませんでしたか?本当にこれで説明できることを確かめた人はあまりいないのではないでしょうか。マグマの粘り気の違いでこのような火山の形の違いが本当に説明できるのでしょうか?ごく簡単な実験で確かめてみましょう。ここでは、マグマの代わりに小麦粉を使います。小麦粉そのままでは使えないので、液体と混ぜて使います。水でも良いのですが、ここではエタノールを使います。水とエタノールを様々な割合で混ぜて板の上に流すという、ごく簡単な実験です。

実験1.小麦粉溶岩実験

用意するもの

  • スチロール板(A2位の大きさ)
  • シリンジ
  • ビニールチューブ
  • 小麦粉
  • エタノール
  • 計量カップ
  • ラップ

実験の手順

  1. 図2.実験装置

    図2.実験装置

    実験装置をつくります。図2のように、シリンジにチューブをつけます。スチロール板に穴を空け、そこにチューブの先を固定します。板の下にチューブがあるので、板を固定する必要があります。ここでは発泡スチロールのブロックを土台として使っています。実験する際に板にラップをかけると、すぐに次の実験に移ることができて便利です。

  2. 図3.粘り気の高いマグマを模擬した実験

    図3.粘り気の高いマグマを模擬した実験

    高い粘り気をもつ流紋岩マグマを模擬した実験を行います。小麦粉とエタノールを混ぜて、小麦粉マグマを作ります。容積比で小麦粉:エタノールが10:7になるようにして混ぜると、粘り気の高いマグマを作ることができます。よく混ぜて粘り気の高い小麦粉マグマを作って、それをシリンジにを入れて押し出します。すると、穴から板の上に溶岩が流れ出します。
    図3のような結果になりました。ちょっと想像したのとは違う形ですが、こんもりと盛り上がった形になりました。まあドーム状と言っても良いでしょう。

  3. 図4.粘り気の低いマグマを模擬した実験

    図4.粘り気の低いマグマを模擬した実験

    玄武岩マグマの模擬。今度は粘り気の低いマグマを考えてみましょう。小麦粉とエタノールの比率を1:1に変えるだけです。これで粘り気の低いマグマができます。同じように板の上に流してみます。
    図4のように、うすく平べったい溶岩ができました。粘り気が低いと、薄く広がることが分かります。真ん中飛び出しているのは火口(チューブ)です。繰り返し噴火し、このような薄く広がる溶岩が繰り返し重なると、盾状火山のような形になりそうですね。

  4. 図5.中間の粘り気をもつマグマを模擬した実験

    図5.中間の粘り気をもつマグマを模擬した実験

    安山岩マグマの模擬。最後に、中間の粘り気をもつマグマを考えます。やはり小麦粉とエタノールの比率を変えるだけです。実験1と2の中間の比率で実験してみましょう。
    こんな形になりました(図5)。穴は火口(チューブを抜いた後)です。どうですか?中間の粘り気のマグマの形は成層火山のようになりましたか?やや厚みはあり広がりにくいものの、粘り気の低いマグマと同様に、平べったく広がった形になります。いわゆる「パンケーキの形」(当たり前ですね)になります。どうみても成層火山の形ではありません。火山は何度も噴火を繰り返すことが多いのですが、このようなパンケーキ型の溶岩が積み重なっても、成層火山のように、きれいなすそ野を持つ円錐形に近い形が再現できるとは思えません。これはいったいどうしたことでしょうか?

解説1

成層火山は本当に安山岩マグマで作られるのか?

 玄武岩マグマの盾状火山や流紋岩マグマの溶岩ドーム(ちなみに「鐘状火山」は火山学の専門家の間ではほとんど使われていない言葉です)については溶岩の粘り気で説明がつきそうです。しかし、安山岩マグマ/成層火山については、うまく説明できません。これについて考えてみましょう。まず、教科書に書いてあることが本当なのか、疑ってみます。本当に成層火山は安山岩マグマによってできるものなのでしょうか?

 そのような火山も多いことは確かです。安山岩のマグマが繰り返し噴出して成層火山になった火山はたくさんあります.図6(a~c)の火山は、いずれも安山岩マグマの噴火によってできた成層火山です。

図6a. アンデス山脈のリカンカブール火山(チリ).安山岩の英語アンデサイトの語源はアンデス山脈。

図6a. アンデス山脈のリカンカブール火山(チリ).安山岩の英語アンデサイトの語源はアンデス山脈。

図6b.ニュージーランド北島のナウルホエ山。富士山によく似ている。

図6b.ニュージーランド北島のナウルホエ山。富士山によく似ている。

図6c.鳥海山。秋田県と山形県の県境にそびえ立つ成層火山。

図6c.鳥海山。秋田県と山形県の県境にそびえ立つ成層火山。

富士山のマグマは玄武岩マグマ

 安山岩マグマでできる火山は成層火山、あるいは成層火山なら安山岩マグマからできている、といえるのでしょうか?実はそうとは言えません。成層火山の代表選手とされる富士山ですが、実は安山岩マグマの噴火によってできたものとは言えないのです。参考書などに図1のような説明がありますが、インターネット上で専門家による情報を調べてみましょう。例えば、日本中の地質を調べて報告している機関の産業総合技術研究所の富士山の解説(https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/fujisan/text/exp-1.html)をみてみると、富士山は玄武岩マグマを長期にわたり噴出し続けていると書いてあります。そうなのです。実は富士山は主に玄武岩でできているのです。安山岩ではないのです。

他にも玄武岩の成層火山はある

 富士山は成層火山なのに玄武岩?ということで、富士山が特殊なものと考えてしまう人もいるようです。インターネット上では、「富士山が唯一の玄武岩質成層火山」といった情報も見受けられるのですが、それは誤りです。玄武岩でできている成層火山は、富士山の他にも幾つもあります。図7の写真もきれいな成層火山ですが、これらも玄武岩マグマでできたものです。世界中、日本中に他にもいくつも玄武岩質の成層火山があります。

図7a. チリ、オソルノ火山。アンデスにも玄武岩質の成層火山がある。

図7a. チリ、オソルノ火山。アンデスにも玄武岩質の成層火山がある。

図7b. 岩手山。南部富士とも呼ばれる。

図7b. 岩手山。南部富士とも呼ばれる。

マグマは流れるだけではない:桜島の爆発

 さて、これまで火山の形をマグマの粘り気、すなわち溶岩の流れやすさによって説明しようとしていました。本当にそれで良いのか考えてみましょう。図8は鹿児島の桜島が噴火している様子です。桜島は安山岩の成層火山です。この写真では、桜島の火口から噴煙が高く立ち上っています。火山灰や火山弾を火口から放出する、「爆発的噴火」と呼ばれるものです。火山灰や火山弾は、マグマがバラバラになった状態で放出されるものです。火口の地下にある岩石が砕けたものも火山灰や火山弾には含まれます。桜島だけではなく、多くの火山でこのような火山灰や火山弾を放出する爆発的な噴火が繰り返し起きます。富士山や岩手山のような玄武岩質の火山でも、これまで爆発的な噴火を繰り返しています。

図8.桜島の爆発的な噴火

図8.桜島の爆発的な噴火

そもそも成層火山って?

 そもそも、成層火山って、なぜ成層火山とよばれるのでしょうか?「成層」とは層がたくさん積み重なった状態を指す言葉です。成層火山は、溶岩と火山灰・火山弾などが積み重なった成層構造を成しています。だから成層火山と呼ばれれるのです。どうやら火山灰や火山弾の存在が重要に思えてきましたね。そして火山灰や火山弾は爆発的な噴火によって放出されるものです。それでは、爆発的な噴火についても簡単な実験をして考えてみましょう。

実験2 小麦粉爆発実験

用意するもの

小麦粉溶岩をつくるために使った道具をそのまま使いましょう。噴火の材料は小麦粉だけで、エタノールは使いません。

実験の手順

  1. 図9.シリンジを押す勢いによって高く上がったりあまりあがらなかったりします。

    図9.シリンジを押す勢いによって高く上がったりあまりあがらなかったりします。

    今度は、小麦粉だけをシリンジに入れます。シリンジを押して繰り返し小麦を吹き出させます(図9)。チューブは真っ直ぐ上を向くように固定しましょう。

  2. 図10.爆発を繰り返した結果できた小麦粉火山。

    図10.爆発を繰り返した結果できた小麦粉火山。

    繰り返し噴火でできた地形を観察しましょう。
    このようにして出来上がったものが図10です。どうですか?今度は円錐形の成層火山に近い形になりました。

解説2

火砕丘と成層火山

 この実験から、爆発的な噴火によって火山灰や火山弾が火口から繰り返し放出されると、円錐型の火山ができることがわかります。実は、成層火山の他に、きれいな円錐型をした火山があることが知られています。「火砕丘」と呼ばれる火山です。火砕丘は、成層火山よりもずっと規模が小さいものがほとんどです。図11(a~c)は火砕丘の写真です。世界中に火砕丘があります。日本では、阿蘇米塚の他には伊豆の大室山が有名です。

図11a. 熊本県阿蘇の米塚。阿蘇カルデラの中にある小さな火砕丘。

図11a. 熊本県阿蘇の米塚。阿蘇カルデラの中にある小さな火砕丘。

図11b.ニュージーランド、オークランド市内のマウントホブソン。ニュージーランド最大の都市オークランドには、市街地に50以上の火砕丘がある。

図11b.ニュージーランド、オークランド市内のマウントホブソン。ニュージーランド最大の都市オークランドには、市街地に50以上の火砕丘がある。

図11c. モンゴル北部。ウラントゴー火山。大陸の草原の中にも火砕丘がある。

図11c. モンゴル北部。ウラントゴー火山。大陸の草原の中にも火砕丘がある。

 火砕丘と成層火山の違いは、大きさだけではありません。火砕丘は短期間の爆発的噴火だけでできるものです。そのため、火砕丘の中は、火山灰や火山弾などの爆発的噴火によって生じたものだけが堆積してます。一方、成層火山は、長い間、爆発的噴火と溶岩の流出を繰り返してできるものです。そのために、火山灰・火山弾と溶岩が清掃しているのです。

 今回行った小麦粉の実験の場合は、短時間、爆発的噴火を繰り返してできる火山を模擬していますので、どちらかというと成層火山よりも火砕丘に近いものです。しかし、円錐形の火山ができる原理はこれでご理解頂けたと思います。爆発的な噴火と溶岩噴出を繰り返せば、大きな円錐型の山ができることは想像できますよね。玄武岩マグマでも爆発的噴火は起きますので、これで富士山のような玄武岩マグマでも成層火山ができることが合点頂けたと事でしょう。今回は行いませんでしたが、小麦粉の実験では、爆発と溶岩を繰り返し発生させることもできます。大きめの板を用意して、大きな山体を作ってみてはいかがでしょうか?

 火山の専門家は、高度な観測や分析を行うだけではなく、小麦粉のような簡単な食材などを使って、火山を模擬する実験を行うことがしばしばあります。小中学校での教育用に使う場合もありますし、高度な研究の一環として行われることもあります。近年は「キッチン火山学」という専門分野もできました。誰でも簡単にできる実験が多く、学校の理科の授業などでもぜひ取り入れて頂きたいものです。小中学生向けとして「世界一おいしい火山の本―チョコやココアで噴火実験 (自然とともに)」(林信太郎著)はお薦めです。

 国際資源学部では世界中のフィールドを対象に研究が行われます。筆者も世界中の火山の調査を行っており、今回紹介した写真の火山は、研究対象として実地調査を行ったものや、学会の際に撮影したものです。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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