塩化物イオンは、食塩の主成分である塩化ナトリウムが水に溶解したときに生成する陰イオンで、元素記号で表すとCl–です。今回は、塩化物イオンの濃度をはかるための簡易型センサーを作ります。
水溶液中の塩化物イオンの濃度に応じて電位が変化する電極を作り、その電位の変化をテスターを使ってはかります。電位をはかるとは、二つの電極の間の電位の差(電位差)をはかるということで、このとき基準となる電位の安定した電極(参照電極とよびます)が必要です。ここでは銀線を使った参照電極を作ってみます。
上段にあるのは各濃度の食塩水、中段左からステンレス針金、O-リング、銀線、ガラス管、セロハン紙、テスター、下は電池ボックス
まず銀線の表面を塩化銀で被覆した電極を作ります。2%くらいの食塩水をつくっておき、その中に銀線と針金を入れ、銀線を電池の+極側に、針金を–極側につないで電気分解を行う(図1)。こうすると、銀線の表面では銀が酸化されて銀イオン(Ag+)になると同時に水溶液中の塩化物イオンと反応し、水に不溶の塩化銀(AgCl)を生成して銀線表面に析出します。するとはじめは銀色に光っていた銀線が黒く見えるようになります(図2)。化学反応式で書くと
Ag+ + Cl– → AgCl
です。この電極を二本作ります。
図1. 赤い線を電池の+極に、黒い線を電池の–極につなぐ。
図2. 出来上がった電極
図3. 参照電極(Ag/AgCl電極)
次は、参照電極を作ります。ガラス管の片方の端をセロハンでふたをしてO-リングや輪ゴムなどで固定する(このとき中から液が漏れないように、しっかり止める)。濃いめの食塩水(5%など)をガラス管の中に入れ、1で作った電極を入れ(黒くなった部分を中に入れる)、ティッシュやテープなどを使って固定します。これで参照電極(銀塩化銀、Ag/AgCl電極)が完成です。(図3)
図4. 測定の様子
図4のように食塩水の中に1で作った電極と、2で作った参照電極を入れ(あまり深くまで入れると液が漏れやすいので、写真の程度で大丈夫です)、テスターをつないで電圧測定のモードで電位差をはかる(テスターの黒い線の方を参照電極につなぐ)。各濃度の食塩水で順に電位をはかっていく。このとき濃度の低い方の食塩水から順にはかっていってください。テスターの値がなかなか安定しないかもしれませんが、おおよそ1分くらいの間で値を読んでください(簡易センサーなので特に濃度が低いところは不安定です)。
図5. 片対数グラフ用紙にプロットした例
横軸を濃度の常用対数、縦軸を電位差としてグラフを作る。表計算ソフトでグラフ化するか、もしくは紙に書く場合は片対数グラフ用紙を用いると便利です(図5)。グラフはおおよそ直線になります。グラフが直線になる濃度範囲に入っていれば、濃度が未知の食塩水をはかった時の電位差から濃度を知ることができます。
今回用いた銀線の電位は、溶液中の塩化物イオンの濃度によって変化し、それは“ネルンスト式”と呼ばれる関係式に従うことが知られています。今回の実験では、参照電極はセロハン紙でふたがされているので、参照電極の中の塩化物イオンの濃度は短い時間ではおおよそ一定と考えられます。それに対して、もう片方の銀線の電位は、食塩水中の塩化物イオンの濃度に応じて変化します。そのため塩化物イオンの濃度がはかれるというわけです。
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