昔から物の形が変化して見えることに人は興味をもってきました。円筒の軸方向に複数のスリットを設けて、そこから回転する円筒の対面に描いてある絵を覗くと不思議に動いて見えるゾートロープという機器が作られていました。人は連続的に見ているつもりでも暗い部分は印象に残らず、その前に見た視覚イメージが頭に残ってしまいます。これが残像といわれるものですが、この性質を利用すると、動いて見えるものが作れるのです。コマ毎に変化する画像を見るという意味では映画なども同じで、コマとコマの間は光をさえぎるように作られています。この残像により点滅光を利用すると、立体の形が変化しているように見せることもできます。つまり、形を少しずつ変えた複数のオブジェを移動させながら点滅光をあてると、光の点滅と立体が移動するタイミングがちょうど合ったとき(同期したとき)に、形が変化して見えるのです。立体ゾードロープとは回転する円盤上にこの複数のオブジェをつくり、そのオブジェクトの通過時刻と同期する点滅光の下で、形の変化や動きを楽しむものです。
昔はレコードに使われていたターンテーブルや多重撮影に使っていたストロボを使えば簡単に実現することができたのですが、価格等も考えると、今ではこれらを手に入れるのが容易ではなく、簡単に試すことができず残念ですが、電子技術が発展した現代では簡単に作ることができます。また、このタイミングを合せる同期という作業は、人の目で機器の回転速度を調整する場合に今でも使われている基本的な技術です。これから簡単につくる方法を紹介します。
オブジェを乗せる円盤ですが、直径20cmぐらいが作りやすく、モーターも小型で安く済みます。円周上に並べるオブジェの数は大きさと作る手間を考えると10~20ぐらいが適当であり、この個数で1回転の間に変化するオブジェのシナリオを考えなければなりません。角度を等分に分割しやすい数はNを自然数としたとき2Nの数になり、ここでは24の16にします。鮮明な残像が0.1秒程度続くといわれているので、1秒間に1回転(または1分間に60回転なので60rpmと表す)の速さの場合、、1/16=0.0625<0.1となり、連続的に見えるという条件は満たしますが、1サイクルのオブジェの変化は、1秒で終わってしまいます。あっという間に終わるので少し物足りないですね。少し延ばして2秒ぐらいあれば、多少ちらつきを感じたとしても変化をゆっくり味わえます。そこで、ストーリーに応じて60rpmから30rpmの間で回転させることにしましょう。音楽用のレコードでも、33rpm(LP盤)、45rpm(SP盤)が標準でしたので何か奇遇を感じます。これでも短すぎると思う方は、32個のオブジェクトにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。(かなり小さくなりますが・・・)
構成部品は大きく下の3つの部分に分けられます。
なお、この円盤の中心に直接モーターの軸を取り付けて回転させたいところですが、DCモーターの回転速度は一般的に1秒間に100~200回転程度と大きく、その代わりに回転トルク(回す力)が小さいのです。そこで、歯車(ギア)を使い回転速度を落とし、逆にトルクを増やして使うのが一般的です。回転速度が1/M倍に下がると、トルクはM倍に上がります。また、モーターで円盤を回す際に、これを支える台がしっかりしていないと円盤の回り始めに生じる反作用の力で台が動いて不安定になりますので、ある程度重量のあるケースに金具で取り付けることにします。
もし近くに店が無くてもインターネットですぐに見つかるはずです。ここで紹介する例では、直径21cmの黒い盆、ケース、L型金具、磁石(25個入り)、粘土(それぞれ約100円)、ネジセット(約200円)、モーターとギアボックスがセットのタミヤウォームギヤーボックス HE 72004(600円~700円)、コントローラ(Arduino nano互換 約500円)、USBケーブル(約100円)、LED、抵抗、タクトスイッチ、ジャンパ線などの電子部品(約500円)。場合によっては送料がかかる場合があるかもしれませんが、全部で2000円ちょっとでできそうです。今回使っているモーターとギアボックスのセットでは、歯車の組み合わせにより、30と46rpmが選べます。
材料が集まったところで組み立てます。
盆の中心に穴を開け、十字アームを取り付けたギアボックスの軸を通します。今回はギアボックスを組み立てる際、30rpmで回転するようにギアを取り付けました。その後L字金具で台に取り付けました。円盤と軸を取り付ける際、垂直につけることが大事です。そうしないと円盤が回転すると揺れが生じてしまい、オブジェがきれいに見えません。円盤には円周の16等分の位置に穴を開け、頭が平になっている皿小ネジ(4mm)を固定し、この上に磁石をくっつけています。これで取り外しが簡単で、何度でもオブジェを作り変えて楽しむことができます。ここではオブジェのシナリオとして「花の一生」を表現してみましたが、粘土に石粉入粘土を使っています。木の枝のように細い部分が多い場合は、樹脂粘土が乾燥せず使いやすいかもしれません。
モーター付ギアボックスと台の固定
円盤とギアボックスの固定と皿小ネジ(16本)の取付
磁石の上に粘土で造形したオブジェクトの設置
3Vのバッテリーで作動させています
次にブレットボード上に、コントローラとLEDやボタンなどを右のように配線します。コントローラのUSB端子にケーブルをつないで、パソコンやUSBコンセントから電源を供給します。Aruduino IDEをパソコンにインストールして次のプログラム(スケッチ)を装置に書き込めば、点滅します。ボタンを押すと点滅周期が増減します。
直径21cmの円盤ではオブジェが小さく複雑な形状をつくるのに苦労します。30cmの円盤であればもう少し大きくできますが、円盤が重くなるのでモーターのトルクが必要になることと、軸を支える構造を強くする必要があります。そこでギアとモーターが一体となったギアドモーター(約5000円)を使い、さらに台と円盤の間にベアリングを挟んでみます。軸円盤と完全につながっているのではなく、回転力を与えているだけで、円盤はベアリング上を転がっているので、揺れずにきれいに回ります。また、オブジェについては、CADソフトで設計図を描き、3Dプリンタで作成します。今回のシナリオは、「バク転」です。円盤が大きいのでストロボに強力なLEDを使ってみました。
3次元CADで16個の体の形状を作りますが、まず身体の手、足、胴などのパーツを作っておくとその組み合わせによって簡単に動きのパターンを作成できます。
また、円盤に固定することを考えて、平らな部分(サポート)もつけておきます。
ギアドモーターを使うと構造がシンプルになります。モーターが大型になり、6V以上で動作させます。
スラストベアリングを使い台の水平面に平行に円盤を回すことにより、揺らぎを減らします。
30cmの円盤を使うとオブジェも比較的大きくできます。今回は約60rpmで回してみます。
ストロボの方は円盤の大きさが増加した分、光量を増やすため、高出力LEDを使用します。
いかがでしたか。
少し発光が強すぎたようですが、おもしろさはわかっていただけたと思います。
ものをつくることは楽しいですね。今回作った立体ゾードロープも時間とお金をかけ、工学的な知識を身にければ、もっとクオリティーの高いものができます。
例えば、ビデオには音が入っていませんが、静かに干渉しようとすると実際はモーターの音や摩擦音が気になります。ブラシレスモーターによるダイレクトドライブや磁気ベアリングを採用すればすばらしいものになるでしょう。また今回はタイミングをとるのにボタンで発光周期を調節しましたが、コントローラにフォトインタラプタなどのセンサーをつけることで、調節も自動で行うこともできます。
そして何よりも、オブジェの造形とシナリオに熱意と工夫を注ぎ込めば、きっと注目されるものができあがるはずです。「ゾートロープ」のキーワードでインターネットを探すと、すばらしいものがたくさん見つかります。皆さんもこれらに負けないようなものを作ってみてはいかがでしょうか。
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