山形県南部の置賜地方では、江戸時代から鯉の養殖が続いています。上杉鷹山の時代に始まったとされる米沢鯉は郷土の味として、今も長井市や米沢市の養殖池で大切に育てられています。
ところが近年、この養殖池に「招かれざる客」が現れるようになりました。カワウという黒い大型の水鳥です。カワウは潜水が得意で、一日に約五百グラムもの魚を食べるといわれ、群れで飛来すると、一年以上かけて育てた鯉があっという間に食べられてしまうのです。人手の少ない養殖場では、広い池を一日中見張ることはできません。
そこで私たちは、長井市の(有)高橋鯉屋さんと協力し、AIに「見張り役」を任せる仕組みを作りました。養殖場にもともとあった四台の監視カメラの映像をプログラムが定期的に切り出し、画像を理解できる生成AIに「この写真に鳥はいますか」と問いかけます。AIが「いる」と判断すると、その画像と判断の理由が養殖業者のスマートフォンへ自動で届きます。
実際の池で試すと、AIが「鳥がいる」と知らせたときの正しさは九十六パーセントで、誤報はほとんどありませんでした。費用も一日三百回動かして月に約二十ドル(三千円ほど)です。一方で、鳥を見逃す場合もまだあり、これをどう減らすかが次の課題です。この成果は、アメリカ野生生物学会の学術誌「Wildlife Society Bulletin」に、論文「Field evaluation of artificial intelligence early warning for bird depredation at carp ponds」として掲載されました。
現在は、検知と同時に光などで自動的に追い払う装置の実証も始めています。カワウが来たときだけ刺激を与えるので慣れにくく、人がいなくても池を守ることを目指しています。
この研究の面白さは、カメラで「見る」、AIで「見分ける」、記録を「ためる」、装置を「動かす」という流れが、鯉とカワウに限らず使えることです。同じ考え方で、田畑を荒らすイノシシや人里に近づくクマへの対策にも取り組み始めています。
工学は研究室の中だけで完結しません。地域の人が長年悩んできた問題に飛び込み、現場の声を聞きながら、電子回路やプログラム、AIを組み合わせて解決策を形にする。そんな「地域の現場から生まれる工学」に、皆さんもぜひ挑戦してみてください。
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