水素を大量に輸送する方法はいくつかありますが、低温に冷やして液化し、圧力をかけて体積を800分の1に圧縮する方法が大量輸送・貯蔵に適した方法とされています。一方、水素を液化するには相当のエネルギーが必要です。室温にできるだけ近い温度で簡便に圧縮できる容器があれば、今よりもずっと水素エネルギーを利用しやすくなります。水素の容器を探索するには、水素の性質を知ることも重要です。水素は室温で5.4GPaの圧力をかけると、固体になります(図1)。それよりも低い圧力では、超臨界流体(=気体と液体の区別がなくなり、気体の拡散性と液体の溶解性の両性質を示す)であると考えられてきました。私たちの研究室では、水素分子の回転運動、および振動運動のスペクトルを詳細に観察することで、室温、560MPaで相転移することを初めて明らかにしました。また、この転移によって現れた超臨界流体高圧相では、オルソ−パラ(OP)転換が無触媒で瞬時に進行することを明らかにしました。
室温で数百MPaの圧力で生じる水素のOP転換は、加圧の段階で既に平衡状態に達しており、極めて短時間で転換が完了します。無触媒、室温という条件での圧力誘起OP転換は、従来の触媒利用によるものと一線を画し、その機構解明への取り組みが始まったばかりです。「高圧相への転移圧力の低減が、OP転換挙動を誘起する圧力を低減する」と予測することは、難しくチャレンジングな研究ではありますが、高圧相への転移機構が解明され、転移圧力低減をおこす条件が見つかれば、水素を運ぶ容器の開発にとって、極めて重要なヒントになるのは間違いありません。
また、水に代表されるような液体やガラスのような構造の乱れた状態において、熱力学的性質や構造が区別されて複数の状態が存在する“ポリアモルフィズム”の概念が、室温下での水素の超臨界流体相にも適応できるか否かは、今のところは不明ですが、最近、これを裏付ける新しい概念が登場しています。今後の研究で、密度の異なる低圧相と高圧相の存在が明らかになれば、学術の体系や方向を大きく変えることにもなるでしょう。
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