船舶、特に貨物船では積載貨物の量により浮き沈みの度合い(喫水)が変わり安定した航行ができなくなります。そこで、船舶にはバラストタンクと呼ばれる空間が用意されており、積載貨物が少ないとき、そこに海水を取り込んで喫水を調節します。これを船舶バラスト水と言います。1980年代から、バラスト水やバラストタンク内の沈殿物に紛れ込んだ水生生物の沿岸生態系への影響が指摘されるようになりました。外来種の流入が固有種の絶滅を招いたり、漁業被害や病気の流行につながる恐れがあるためです(図1)。国連の専門機関の一つである国際海事機関(IMO)で議論が進み、「バラスト水管理条約」が2004年に採択され、各国での批准を経て2017年に発効しました。日本も2014年に締結済みです。条約では50μm以上の生物、10〜50μmの生物、細菌類に分けてバラスト水排水基準が定められており、2024年までに現存船も含めて対応する必要があります。
バラスト水の浄化のため、フィルタリング、UV照射、化学薬品、電気分解等いくつかの手法が考案され、実用化されています。フィルタリングは船内に取り込んだ海水をフィルターを用いて濾過する方法です。簡単で有効な方法ですが、50μm以下の生物は通り抜けてしまいます。また、フィルターの洗浄や交換が必要だという問題もあります。UV照射は紫外線により殺菌する方法です。細菌にも有効ですが、紫外線が水中で急速に減衰するため大型の装置が作りにくい問題があります。化学薬品は次亜塩素酸ナトリウム等の薬剤で殺菌する方法です。プールの消毒などにも用いられる方法ですが、薬品を含む海水をそのまま排出できないので中和する必要があります。電気分解は海水の電気分解により次亜塩素酸ナトリウムを生成する方法です。その他にもいくつか手法がありますが、それぞれ一長一短があり、実際には複数の方法を組み合わせて使われることが多いようです。設置可能な装置のサイズ、運用コスト、船体へのダメージなどの問題もあります。
神戸大学海事科学部では既存のシステムの欠点を補うため、マイクロバブルを利用する方法や電磁力を利用する方法など、新しい仕組みでバラスト水を処理するシステムの研究開発を進めています。図2に電磁力を利用したバラスト水処理システムの数値シミュレーション結果を示します。ダクトを流れる海水に磁場をかけ電流を流すことで、電磁力により生物を分離しようというシステムです。
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