
2026年2月6日
関東地区
東京農工大学 工学部 化学物理工学科
准教授 利谷 翔平
私たちの研究室では、豚ふん尿の環境問題解決に取り組んでいます。図1に示されるように、養豚では飼料を輸入に頼っています。輸入飼料を食べた豚から排泄されたふん尿には、肥料成分であるアンモニウムやリンが豊富に含まれています。アンモニウムやリンは富栄養化の原因物質でもあるため、ふん尿は適切にリサイクルまたは浄化される必要があります。現状、豚ふん尿は堆肥化や浄化処理がされています。堆肥は肥料や土壌改良材としての価値がありますが、過剰供給といわれており、生産した堆肥のすべてが使用されているわけではありません。浄化に関しても、排水の規制が厳しいため、より効率的な技術が求められるようになっています。輸入飼料に含まれているアンモニウムやリンがうまく循環できないため、このような問題を引き起こしています。加えて、これらの処理は化石燃料を消費して行われているため、枯渇資源の利用と温室効果ガスの発生も問題となります。
以上のようなふん尿処理に由来する資源問題や温室効果ガスの解決を目指して、私たちの研究室では、豚ふん尿を乾式メタン発酵で処理し、発生する発酵残渣を炭化によりバイオ炭(炭化物)に変換し、メタン発酵や飼料イネの栽培に利用する技術について研究を行っています(図2)。
メタン発酵は、嫌気性微生物(酸素がない環境で活動する微生物)のはたらきによって有機物をメタンにまで変換する生物化学反応です。生産されたメタンは発電や熱源として利用することができます。「乾式」メタン発酵とは、ふん尿や稲わらなどの、水分が比較的少ない原料を発酵するものです。発酵の残りかすである発酵残渣は、ドロドロもしくは粘土状です(図3)。提案するシステムでは、ふん尿とわらを乾式メタン発酵し、得られたメタンを再生可能エネルギーとして利用します。そのため、化石燃料の利用を減らすとともに、化石燃料使用に伴う二酸化炭素の発生を減らすことができます。現在は、本学農学部で育種されたイネの稲わらと、豚のふん尿からメタンガスを得るための試験を、図4に示されるような手作りのメタン発酵装置を用いて実験を行っています。
炭化とは、低酸素濃度下で高温(350-800℃)でバイオマス(植物やふん尿などの生物由来の資源)を蒸し焼きにし、炭にする技術です。バイオマスの炭化で得られた炭は、バイオ炭もしくはバイオチャーと呼ばれ、土壌改良材や二酸化炭素貯留技術としての利用が研究されています。バイオ炭は、一般的にアルカリ性、多孔質であり、陽イオン交換能を有しています。そのため、分子や陽イオンなどを表面や細孔内にトラップ(吸着)する機能をもちます。私たちは、このようなバイオ炭の機能を利用したメタン発酵の効率化や、排水に含まれている肥料成分(アンモニウムやリン酸)などの回収を研究しています。一例として、乾式メタン発酵残渣のバイオ炭(図5)を調製し、そのアンモニウムおよびリン酸の吸着能を評価しました。その結果、このバイオ炭はアンモニウムの吸着能は有するが、リン酸吸着能は低いことが明らかとなりました。現在は、乾式メタン発酵残渣バイオ炭のリン酸吸着能を向上させる技術について研究を行っています。最終的には、発酵残渣バイオ炭を用いてふん尿からアンモニウムやリン酸を回収し、肥料として利用する技術を開発したいと考えています。
このバイオ炭を、飼料イネ(家畜の飼料として、米の部分やワラが利用できるイネ)の水田に施用することで、土壌改良や吸着したアンモニウムやリン酸を肥料として利用できることが期待されます。また、バイオ炭には土壌から発生する強力な温室効果ガスであるメタンや亜酸化窒素を抑制する機能があることも報告されています。そこで、乾式メタン発酵残渣炭化物についても土壌から発生する温室効果ガスを削減する機能があるのか?また、それはどのようなメカニズムか?といったことについても研究を実施しています(図6)。
このように、乾式メタン発酵や高機能なバイオ炭による資源回収・環境浄化を駆使して、ふん尿を環境にやさしく循環させていく技術の研究を今後も続けていきます。
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