2023年3月17日
東海地区
名古屋工業大学 工学部
代替フロンとは、特定フロンであるCFC(クロロフルオロカーボン)の代替として利用されるHCFC (ハイドロクロロフルオロカーボン)、HFC(ハイドロフルオロカーボン)などの総称です。代替フロンは毒性がなく、安価であるため、20世紀に冷媒や機械洗浄剤として世界的に流通しました。しかし、代替フロンが二酸化炭素の数百~数万倍の非常に高い温室効果ガスであることがわかりました。そのため、1987年のモントリオール議定書でCFCの使用が禁止され、2017年3月のモントリオール議定書第28回締約国会議で採択されたキガリ改正で、今後2036年までにHCFCやHFCを段階的な削減すること決定しました。代替フロンは、フッ素製品の生産で副産物として生成されるため、代替フロンは大量に貯蔵されています。現在、代替フロンのほとんどは産業廃棄物として焼却処理されているため、資源の問題やエネルギーの問題からも、環境にやさしくありません。そこで名古屋工業大学大学院工学研究科工学専攻(生命・応用化学領域)の柴田研究室では、代替フロンを分解して、フッ素化合物を合成する有機合成法の開発を目指しています。
フッ素化合物は耐薬品性や撥水發油性をもつため、フッ素は身近な製品に含まれています。歯磨き粉、フライパンなどのフッ素樹脂、フッ素ゴムなど、幅広い産業に利用されており、近代社会を支える元素のひとつです。また、フッ素が貢献する重要なものに、医薬品と農薬があます。最近5年間で承認された医薬品の40%近く、市販農薬の70%がフッ素を含む有機物質です。このように、フッ素を利用した製品の利用によって、私たちの生活の質が上がっていると言えます。
代替フロンの化学構造はフルオロアルキル基(CnFm)の最小単位です。そのため私たちは、代替フロンHFC-23 (フルオロホルム、HCF3) をトリフルオロメチル(CF3)基、HFC-125 (ペンタフルオロエタン、HC2F5) をペンタフルオロエチル(C2F5)基して利用する手法の開発に取り組んできました。代替フロンをフッ素源として利用するには、1)脱プロトン化に強塩基を用いること、2)不安定なフルオロアルキルアニオン (−CF3、 −C2F5) を分解する前に反応させること、が必要です(図1A)。私たちは、カリウム塩基を用いて、温度や添加剤をうまく組み合わせることで、代替フロンをフッ素源として利用できることを見出しています(図1B、C)。
さらに、代替フロンの工業的利用法の開発を目指して、フロー法へ応用を行いました。フロー合成とは管上の流路に試薬や溶媒を流して反応を行う手法のことです。連続運転することで大量合成が可能になるだけでなく、生産性がよい手法と言われており、フロー合成に応用することができれば、より産業的な手法に近づけます。私たちは3成分混ミキサーを用いることで、代替フロンを効率的にフッ素源に変換することに成功しました。様々なカルボニル化合物に対して、ペンタフルオロエチル化とトリフルオロメチル化が良好な収率で進行しました(図2)。また、種々の生理活性物質誘導体に対しても本手法を適用することにも成功した。本手法は代替フロンの再利用法としてだけでなく、高価なフッ素化合物を安価に合成する手法として今後の展開が期待されます。
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