2022年11月18日
九州地区
熊本大学大学院先端科学研究部
シニア准教授 松田 俊郎
2050年のカーボンニュートラル(CO2排出ゼロ)実現に向けて、熊本大学では、地域のサステナビリティとレジリエンスに貢献するEV(電動)バスの研究開発を進めています。
EVバス普及の為には、EVの本来機能である排気ゼロ、CO2削減に加えて、従来のバスを凌ぐ高い実用性、低価格化、再生可能エネルギー活用や地域のレジリエンスへの貢献など、新しい付加価値が必要と考え、熊本大学独自のアイデアを、社会実装構想、研究開発の内容、EVバスの設計に織り込み、実証試験を行っています。
熊本大学の研究開発では、EV路線バスとEVスクールバスの社会実装を主要テーマとして取り組んでいます。
地域のカーボンニュートラル化の為、公共交通の主力である路線バスを電動化する技術開発を進めています。低価格のEV路線バスを実現する為、量産されている乗用車EVのバッテリーやモーターを活用した大型車用の電動システムと、従来のディーゼルバスを改造してEVバスを製造する技術を開発しました。また、EVバスの付加価値として、ギヤの変速操作を不要にする大容量減速機を開発すると共に、モーターの回生機能を利用した熊本大学独自の1ペダル制御方法(アクセルペダル操作で車両の加速と減速を制御可能)を考案し、運転士の運転操作を大幅に簡素化しました。
技術開発の実行段階では、車両開発、バッテリーなどの電動システム開発、長期の実証試験などに、大規模な産学官の開発体制と研究開発費を要することから、環境省の「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」に応募し、環境省の委託事業として研究開発と実証を進めました。(図2に研究開発内容を示す)
2016〜2018年度の事業で開発した実証試験車が、2018年2月から1年間、熊本市近郊路線を1.6万km運行しました。車両の実用性は高い評価を受けると共に、EVバス普及に役立つ多くのデータを蓄積しました。(図3に熊本実証試験の概要を示す)
2018〜2020年度の事業では、バッテリーや急速充電等に最新技術を織り込み、利用者数、急勾配、渋滞が多くEVバスの適用が難しい横浜市で実証試験を行なって、動力性能、運転容易性、快適性など、実用性で高い評価を受けました。(図4に横浜実証試験の概要を示す)
通勤、通学や施設の送迎などに使われるマイクロバス(全国保有台数10万台)は計画的な運行で使われることが多く、特にスクールバスや幼稚園送迎車は、朝と夕方に運行し日中は学校施設に停車しているので、電動化した場合、太陽光発電の電力で充電して走行することが可能です。
わが国では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入による地域分散電源(エネルギーの地産地消)の発展が期待されますが、V2G技術(EVと系統間で電力をやり取りする技術)を使えば、太陽光発電でEVマイクロバスのバッテリーに貯蔵した電力を地域の電力として利用することも可能であり、地域のカーボンニュートラル化に有効です。
また、豪雨や地震等の大規模災害時には、EVマイクロバスのバッテリーに貯蔵した電力を避難所等の非常電源に使えるので、地域のレジリエンスの強化に有効です。
マイクロバス用途の中で、「中山間地のスクールバスの電動化」を社会実装のテーマとして、環境省の事業を受託し、熊本県の球磨村で実証試験を行っています。(図5に事業概要を示す)
全国の中山間地では、カーボンニュートラル化、エネルギーの地産地消、災害強靭化などの地域課題があり、過疎地での学校統廃合やガソリンスタンド廃業が進む中で、EVスクールバスを社会実装する価値は高いと考えています。
実証試験では、EVスクールバスの実用性評価と充放電等のデータ収集を行い、シミュレーション技術も駆使して、CO2と燃料費の削減効果、再生可能エネルギー連系の効果、非常電源としての可能性をあきらかにし、EVスクールバスの最適な運用方法/制御、地域有用性/事業性をまとめて、全国の自治体や自動車業界等に情報発信し、EVスクールバスの社会実装を推進します。
(本事業では、電動バスの車両開発は行わず、既存の電動バス試作車でデータ収集を行います)
2050年のカーボンニュートラル化に向けて、路線バスに大量のEVバスを導入する場合に必要となる性能(バッテリ容量,充電器出力等)を予測し、バス事業所で必要となる充電電力/電力量、燃料費(電気料金)、電力インフラへのインパクト、電力需給調整の可能性などを検討しています。
(検討例:首都圏のバス事業所(79台運用)では、最大1.6MW程度の充電電力が必要)
(検討例:100kWhのバッテリー容量で首都圏のバス事業所79台の75%をカバー可能)
参考文献
EV路線バス大量運用に必要な性能,電力,燃料費の予測と考察(松田 俊郎ほか)
自動車技術会論文集 53(4) 737-742 2022年6月
商用車(全国保有台数15百万台のトラック、バス)を用途毎に22種類にカテゴライズし、俯瞰的調査と詳細調査を行って、電動化の可能性、充電の可能性などを検討しています。
EV路線バスに最適なタイヤの特性を開発するとともに、タイヤ転がり抵抗の低減による、EV路線バスの消費電力の低減効果をあきらかにしています。
熊本大学のEVバス研究開発で培った技術を使ったEVバスの社会実装が始まっています。(下は熊本城周遊バスの事例)
熊本城周遊EVバス運行 9日から:朝日新聞デジタル (asahi.com)掲載大学 学部 |
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