2021年12月17日
東海地区
静岡大学 工学部
太陽光発電はクリーンなエネルギーとして位置づけられていますが、太陽電池の材料調達や製造時に多くのエネルギーを必要とすることや、森林を伐採して山の斜面に設置されるタイプのメガソーラー発電等では、環境への負荷が問題として指摘されることもあります。これは、現在主流のシリコン太陽電池が、高純度のシリコンを原料とすること、および、太陽電池が重いために頑丈な架台が必要なことが要因です。そこで、従来より少ないエネルギーで製造でき、かつ建物の壁や自動車の車体のようなところにも組み込むことが可能な、軽量・フレキシブル型の太陽電池は、これまでよりも環境にやさしい太陽電池ということができます。
色素増感型太陽電池およびペロブスカイト太陽電池は、シリコン型太陽電池よりも簡便な方法で作製できる低コストな普及型の次世代太陽電池として注目されており、より少ないエネルギーで製造できます。また、フレキシブルなプラスチック基板上に作製も可能であり、軽量かつ曲面にも設置できるという特長もあります。
色素増感太陽電池(DSSC)は、基板上に多孔質の酸化物半導体膜を形成し、その基板を色素溶液に浸し色素吸着を行います。しかし、この作製法では色素吸着に時間がかかるため、DSSCのフレキシブル化に伴うroll to roll 製法導入による高速・高効率というメリットが失われてしまいます。この問題を解決するために、我々は酸化亜鉛の粉末に予め色素を吸着させておいてから薄膜を形成するという先染め法と呼ばれる方法を開発しました(図1)。先染め法では酸化亜鉛粒子表面を色素が覆っているため、塗膜時に酸化亜鉛粒子間の密着性が悪く、酸化亜鉛薄膜の電子伝導性が低下してしまうという問題があります。これに対し、塗膜した酸化亜鉛ナノ多孔質膜にホットプレス処理を施すことで、酸化亜鉛粒子間の接合状況を改善することで性能の向上に一定の効果があることを見出しました。さらに、吸収波長領域の異なる色素を組合せて可視光領域の光を幅広く吸収できる色素増感太陽電池について検討し、430 nm に吸収極大を持つD131色素と520 nmに吸収極大を持つD149色素の先染めナノ粒子を混合して使用することにより、変換効率4.66%とそれぞれの色素を単独で用いた場合の効率を上回る効率が得られ、両色素が効果的に光電変換に寄与していることを示しました。
色素増感太陽電池から派生したペロブスカイト太陽電池は、シリコン太陽電池に迫る高い変換効率も報告され、近年大いに注目されている太陽電池です。我々は、色素増感太陽電池の研究でも正孔輸送材料として用いられるヨウ化銅を用いて、ヨウ化銅を粉末のまま塗布するという、簡便な製膜プロセスでの高効率化を実現しました。ペロブスカイト層/ヨウ化銅界面の接触を考慮し、ペロブスカイトの結晶サイズに対して、同等またはそれ以下のサイズのヨウ化銅微粒子を適用することで、変換効率を8%程度まで向上させることに成功しました。ヨウ化銅粉末をそのまま塗布するだけで、高い効率が得られていることから、製造プロセスがより簡略化でき、図2のような連続工程での大量生産への応用が可能であり、製造コストの低減につながることが期待されます。
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