2021年11月19日
関東地区
電気通信大学 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻
新竹純研究室
これまで主に製造業で利用されてきたロボットは、技術の発展とともに社会における活躍の場を広げており、今後ますます拡大していくことが見込まれます。その例として、空中や水中を移動できるドローンがあります。このタイプのロボットは、屋外での点検作業やモニタリング、災害救助、自然環境での探査、果てはデリバリーと様々な活動を行うことが期待されており、導入が進めらています。
多数のロボットが外で活動することで懸念される問題の一つに、環境破壊があります。室内ではロボットが故障して動けなくなっても、手の届く距離に人間がいます。一方、室外では山や海などで、簡単にはロボットを回収できない場合も出てくるかもしれません。また、それは活動するロボットの数に比例して多くなると予想されます。回収できないロボットは廃棄物となるので、環境破壊に繋がってしまいます。より長期的で広い視点に立ってみると、金属やプラスチックで構成されるロボットの利用が広がることは、同時に環境負荷を高めてしまうと考えられます。こうした点においては、ロボットには持続可能性を持たせることが望まれます。これらのことから、持続可能で環境に優しいロボットは、将来のロボットの利用の拡大を大きく促進することが期待されます。
環境に優しいロボットを実現する一つの手段として、自然に還る材料を用いることが考えられます。このような材料は生分解性材料と呼ばれ、環境中の微生物によって消費されます。生分解性材料をロボットに用いるための方向性として、ソフトロボティクスがあります。ソフトロボットは、柔らかい材料それ自身の変形で動作するので、硬いモータや歯車を使う従来のロボットよりも、構造を単純にできます。それによって、生分解性材料をロボットへ適用しやすくなります。こうしたことが動機となって、本研究室では生分解性を持つソフトデバイスの研究を行っています。具体的には、ゼラチンや紙を用いたアクチュエータやセンサといった要素の開発をこれまでに行い、技術を実証してきました。
図1左に示すのはゼラチンを用いたソフトアクチュエータです。空気の入力によって、曲げ変形を出力することができます。また、図2に示すように、時間の経過とともに土に還ることができます。ゼラチンはコラーゲンから抽出されるもので、主成分はタンパク質です。ゼリーといった食品や工業製品などに幅広く用いられています。実験の結果、開発した生分解性アクチュエータは非生分解性のものと同等の性能を持つことが分かりました。生分解性材料は微生物に分解されるにしたがって変性するので、アクチュエータやロボットの振る舞いもそれに応じて変化します。そこで、材料の変性をパラメータとして実装したシミュレーション環境を構築し、分解の過程におけるデバイスの挙動を予測できるようにしました。その結果を図1右に示します。
紙は植物由来であり、それを構成するセルロースは地球上で最も多い炭水化物とされます。紙を基板として電気的に動作するデバイスは、ペーパーエレクトロニクスとして広く研究がなされてきましたが、ソフトロボットに求められるような大きな変形が加わると、電極が壊れてしまう問題がありました。そこで、折り紙の一種である切り紙から着想を得て、電極に加わる変形がねじりへと変換されるような構造を実現しました。図3左にその構造を示します。これによって、大きな変形が与えられても柔軟に形状を変化させて機能を維持できる、紙ベースのアクチュエータやセンサを開発しました。図3右に示すのは、曲げや物体の近接を検知できる柔軟センサです。
生分解性を持つ材料、要素、およびロボットについて幅広く研究を進めて、バッテリーやコントローラを含めたシステム全体が持続可能で、環境に優しいロボットの実現に取り組んでいきます。こうした活動においては、世界的に推進されている持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)とも相まって、様々な技術が創出されることが見込まれます。それらを体系化することで、環境に調和した究極のロボットを創り出す新しい研究領域、グリーンロボティクスを切り開いていきたいと考えています。
参考文献
掲載大学 学部 |
電気通信大学 情報理工学域 | 電気通信大学 情報理工学域のページへ>> |
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 | 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。 これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。 |