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環境への取り組み

大気中の二酸化炭素カラム量を計測してみよう

九州地区

2018年12月14日
九州地区

鹿児島大学 工学部

研究の背景と目的

図1インドネシア・カリマンタン島のひまわり8号衛星データから当研究室にて作成した画像図1インドネシア・カリマンタン島のひまわり8号衛星データから当研究室にて作成した画像

 地球環境は社会活動や自然環境悪化が進み、世界中の多くの研究機関が地球観測衛星や高精度な計測機器により計測を行っている。例えば、2015年10月にインドネシア・カリマンタン島では大規模な森林火災が起こり、島の南側が肌色の煙に覆われてしまっている。このような森林火災では、PM2.5や温室効果ガスである二酸化炭素が大量に排出している。そこで、当研究室では、ヘイズや温室効果ガスに注目して研究を進めている。

 温室効果ガスは、世界中の多くの研究機関で温室ガスの計測が地上設置高分解能Fourier-transform spectrometer (FTS)やGOSAT2などの観測衛星により行われている。しかし、FTSは非常に高価で大きな設備なため、簡単に移動して計測することは難しい。また、地球全域を計測している観測衛星は、地球を絶えず回っているため同じ場所は数日間隔でしか計測できない。そこで、FTSよりも設置が容易で安価な計測器であるFiber-Etalon Solar Carbon (FES-C)計測器やOptical Spectrum Analyzer(OSA)による温室効果ガス量計測システムの開発を複数機関との共同で進めている。また、大規模な森林火災により大量の温室効果ガスが放出されているインドネシアや社会活動により温室効果ガスが排出されている大都会として東京に計測機器を設置して二酸化炭素カラム量を計測している。

観測機器

図2 温室効果ガス計測機器図2 温室効果ガス計測機器
(a) Fiber-Etalon Solar Carbon (FES-C)
(b) Optical Spectrum Analyzer(OSA)

 我々が開発しているシステムでは、太陽光に含まれる温室効果ガスの吸収スペクトルを観測し、大気層の温室効果ガス量を変えながらシミュレートしたスペクトルと比較することで温室効果ガス量を見積もる手法により観測データの解析を行っている。計測システムは、太陽を追尾しながら太陽光を導入する望遠鏡と太陽追尾装置(図2 上段)と太陽光から二酸化炭素の吸収スペクトルの大きさを計測する分光部(図2 下段)で構成されている。図2(a)の機器は、JST研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)課題「CO2大気カラム濃度自動計測装置の活用・普及促進」の連携担当者として、計測装置の解析精度の向上に行っていた。

研究結果

a) FES-Cによるインドネシア・カリマンタン島・パランカラヤでの二酸化炭素カラム量計測
 インドネシア・カリマンタン島・パランカラヤにFES-Cによる二酸化炭素カラム量を2014年7月から2015年8月まで計測した観測データをGoddard Earth Sciences Data and Information Services Center(GES DISC)の高度・気象データと現地の地上気象データを用いて算出した大気中の二酸化炭素濃度を図2に示す。森林火災などの二酸化炭素の排出が起きていない期間(2014年12月1日から2015年1月6日、2015年5月19日から7月2日、図2緑色矢印の範囲)からバックグラウンドレベル式を算出した(1)。

nは、2014年7月1日以降の日数

2014年7月から8月、2015年3月中旬から5月中旬(図2青色矢印の範囲)に泥炭層が微生物により分解する過程で排出される二酸化炭素の増加が計測されている。また9月から10月(図2赤色矢印の範囲)には森林火災により10.0ppm(平均6.0ppm)の二酸化炭素の増加が見られる。

図2 FES-Cによるインドネシア・カリマンタン島・パランカラヤでの二酸化炭素カラム量計測結果図2 FES-Cによるインドネシア・カリマンタン島・パランカラヤでの二酸化炭素カラム量計測結果
濃い青丸:衛星時間10時から14時のXCO2の平均値、エラーバー標準偏差、黄色◇:射程から見積もったXCO2、△:GOSATによるジャワ海上空のXCO2

b) OSAによる東京学芸大学附属高校での温室効果ガスカラム量計測
 東京学芸大学付属高校の屋上に設置したOSAによる温室効果ガス量計測システムによる平成26年8月から平成28年6月まで計測した観測データを解析して算出した大気中の二酸化炭素濃度を図3に示す。観測地は北半球のため、夏に太陽の高度が高く植物の活動が活発になり二酸化炭素量が低下する、一方、冬には化石燃料の暖房器具を使用するために二酸化炭素が増え、二酸化炭素を消費する植物の活動が気温の低下とともに抑えられるため二酸化炭素量が増加すると報告されている。そこで、図3のデータに対して季節変動を考慮した式でFittingを行った。図3に示す赤線のFitting結果を見ると、夏に二酸化炭素濃度が低下し、冬に濃度が増加する季節変動が観測されている。さらに、二酸化炭素濃度が1年間に2.7ppm増加することが見積もられた。この値は、年平均2ppm増加していることを示している。

図3 東京学芸大学付属高校の観測データから見積もった二酸化炭素カラム濃度の2014年から2016年までの変化図3 東京学芸大学付属高校の観測データから見積もった二酸化炭素カラム濃度の2014年から2016年までの変化
薄い青丸:XCO2、エラーバー:衛星時間10時から14時のXCO2の標準偏差、赤線 Fitting曲線2

参考文献

1) Windy Iriana, Kenichi Tonokura, Gen Inoue, Masahiro Kawasaki, Osamu Kozan, Kazuki Fujimoto, Masafumi Ohashi, Isamu Morino, Yu Someya, Ryuichi Imasu, Muhammad Arif Rahman and Dodo Gunawan, “Ground-based measurements of column-averaged carbon dioxide molar mixing ratios in a peatland fire-prone area of Central Kalimantan, Indonesia“, Sci. Rep., 8: 8437, pp. 1- pp.7 (2018), DOI: 10.1038/s41598-018-26477-3.
2) Xiu-Chun Qin, Tomoki Nakayama, Yutaka Matsumi, Masahiro Kawasakim, Akiko Ono, Sachiko Hayashida, Ryoichi Imasu, Li-Ping Lei, Isao Murata, Takahiro Kuroki and Masafumi Ohashi, "Ground-based measurement of column-averaged mixing ratios of methane and carbon dioxide in the Sichuan Basin of China by a desktop optical spectrum analyzer", J. Appl. Remote Sens. 12(1), 012002 (2017), DOI: 10.1117/1.JRS.12.012002.
3) Masahiro Kawasaki, Masafumi Ohashi, Gen Inoue, “Measuring carbon dioxide emissions with a portable spectrometer”, SPIE Newsroom, pp.1-pp.3 (2013), DOI: 10.1117/2.1201301. 004659.

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