2017年10月6日
九州地区
九州工業大学工学部 応用化学科
坪田敏樹准教授
以前は、タケノコを生産するために多くの竹林は管理された状態にありました。しかし安価なタケノコの輸入量の増大により、タケノコ栽培が経済的に成り立たなくなり、管理されていた竹林の多くが放置されていきました。都市部に生活していると竹害の深刻さを感じる機会は少ないですが、放置された竹林は、無秩序に拡大して、植林された林、畑、人家、等に進出するようになり大きな問題となっています(図1)。この無秩序な竹林の拡大は竹害と呼ばれ、西日本、特に九州地方では年々深刻な状況となっています。竹害は経済的損失(林業への影響、農地の侵入、住宅への被害)のみならず、生態系の単純化(竹のみの林になる)による環境破壊や土砂崩れ等の自然災害の可能性の増大(竹は根の深さが浅いため土壌保持力が低い)を引き起こすため、竹害への対策は非常に重要な課題です。
竹害対策として、竹を有効活用するための取組みや研究が数多く行われてきました。しかし、竹細工や竹炭等の伝統的な工芸品については今後大きな需要の拡大は見込めないと予想されます。竹を紙やバイオエタノールの原料として、木材等のバイオマス資源の代替品として活用する研究については、技術的には実現可能で他の原料の場合と同等の性能を発言できることから一部実用化もされています。しかしながら、竹を集めるための費用(主に人件費)が木材等と比較して高いため広く実用化されるに至っていません。
九州工業大学工学部応用化学科機能材料創製研究室では、高性能な電気二重層キャパシタ電極材料の新規合成方法について研究を行っています。その成果を発展させて、佐賀大学農学部の研究室と共同で、竹から高付加価値製品(キシロオリゴ糖、電気二重層キャパシタ電極材料)を段階的に製造する研究を進めています(図2)。竹から複数の高付加価値な製品を段階的に製造できれば、竹を集めるための費用を賄えて経済的に成り立ち、竹害の解決に寄与できると考えています。「竹からキシロオリゴ糖と電気二重層キャパシタ電極材料を段階的に製造」する研究は、他には例がなく独自の方法として開発をしています。
竹にはキシランという多糖類が20-25 wt.%程度含まれています。キシランは、特定保健用食品の関与成分であるキシロオリゴ糖、天然の代替甘味料であるキシリトールの原料となるキシロースの出発原料です。水を密封して加熱すると100℃以上でも液体の水の状態となります(圧力鍋の原理です)。竹を水に加えて密封し160-220℃程度に加熱する(加圧熱水処理)と、キシランを加水分解してキシロオリゴ糖として水に溶解させて取り出すことができます(図3)。このようにして竹と水だけを原料としてキシロオリゴ糖を生産する研究が佐賀大学農学部で行われています。
電気二重層キャパシタは蓄電デバイスの一種で、イオンが存在する溶液と電極表面の界面に形成される電気二重層により電気エネルギーを蓄えます。電池とは異なる原理で電気エネルギーを蓄えるため、電池では難しい用途(風力発電の発電量の変動吸収、鉄道車両のエネルギー回生)に使用されています。電気二重層キャパシタの電極としては活性炭のような表面積の大きな炭素材料が使用されており、性能向上のための研究開発が世界中で活発に行われています。キシロオリゴ糖を取り出した後の竹の残渣を加熱炭素化してから賦活(炭の表面積を大きくする工程)を行うと活性炭を作製することができます(図4)。この活性炭を電気二重層キャパシタの電極材料に応用する研究を九州工業大学工学部で行っており、残渣のほうが未処理の竹よりも活性炭として有利な原料であることを既に見出しています。
九州工業大学工学部応用化学科機能材料創製研究室では、上記の竹の活用だけでなく、新規な高性能電気二重層キャパシタ電極材料の開発に関する研究を進めています。多糖類や樹脂等に、加熱炭素化時の熱分解反応に関与して生成する炭素材料の組成や構造を変える薬品を添加することで、表面状態や細孔径を制御した新規な電気二重層キャパシタ電極材料の創製や、電気二重層キャパシタ電極材料として高い性能が発現するメカニズム等の解明を目指しています。
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