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環境への取り組み

次世代エンジンの性能向上に関する基礎研究

九州地区

2017年4月7日
九州地区

大分大学工学部 機械・エネルギーシステム工学科
機械コース 熱工学研究室
教授・田上公俊 准教授・橋本淳 助教・加藤義隆(文責・橋本淳)

 大分大学工学部 機械・エネルギーシステム工学科 機械コース 熱工学研究室では、次世代エンジンの性能向上を目指して研究を行っています。実機エンジンの実験が行える大学・研究機関と連携しながら、熱力学・燃焼学・反応性ガス力学の専門性を活かし、燃焼場を模擬した単純装置を使用することによって、現象解明とそのモデル化へ貢献しています。以下に、そのいくつかを紹介します。

エンジンの燃費改善

式(1)式(1)

 エンジンの燃費は、エンジン自体での熱効率、駆動系での損失、車体における空気抵抗など、多様な因子の影響を受けています。ここでは特に、花点火式エンジン(ガソリンエンジン)の効率について説明します。

 火花点火式エンジンの理論的に達成可能な熱効率は、高等学校で学ぶ物理の教科書にも掲載されているかもしれません。火花点火式エンジンの理論的なガスサイクルはオットーサイクルです。その熱効率ηを式(1)に示します。

 ここで、εは機関圧縮比、κは比熱比を表します。式(1)から、火花点火式機関の理論熱効率は圧縮比が高いほど、また、比熱比が大きいほど高くなることがわかります。ここでは前者に着目しましょう。圧縮比は、エンジンの中に取り入れた空気(および燃料)をどれだけ小さく圧縮するか?を表します。例えば圧縮比が10なら、10分の1に圧縮してから燃やす、という感じです。

異常燃焼の現象解明

図1 ガソリンエンジンの効率図1 ガソリンエンジンの効率

 式(1)から、理論的には、吸い込んだ空気と燃料の混合気体を圧縮してから燃やせば、効率があげられることがわかりました。では、実際に機関を運転する場合には、その効率はどのように変化するのでしょうか?図1に、実際のエンジンで圧縮比を変化させた場合に得られる効率の例を示します。図から、圧縮比を高くしてゆくと、あるところで効率が減少傾向に転じていることがわかります。

 この、効率が低下し始める位置では何が起こっているのでしょうか?実は、このあたりから、ノッキングという異常燃焼が生じやすくなっています。ここで、ノッキングについて簡単に説明します。空気と燃料をどんどん圧縮しているわけですから、温度が上がりやすくなっています。そのため、普通ならば空気と燃料の混合気体に点火プラグで火をつけたあと、そこから燃え広がってくれるわけですが、空間の別のところから勝手に火がついて燃え始めてしまう、そのような現象がノッキングです。このノッキングが生じると、図2に示すように、エンジンの中で強い圧力の振動が生じます。詳しいことは割愛しますが、この振動によって熱的なダメージをエンジンが受けて壊れてしまうことがあります。これを避けるためには、点火するタイミングを変えて上げる必要があります。その結果、点火のタイミングがエンジンに取って最も良いタイミングではなくなり、図1に示すくらい効率を下がってしまうのです。現在普及している一般的なエンジンでは、この圧縮比は10-11くらいにとどまっています(特別な用途のエンジンや、ハイオクガソリンを使うエンジンではもう少し大きいです)。

 このような現象をより詳細に解明し、予測モデルの開発を行ってゆくために、熱工学研究室では急速圧縮膨張装置を用いて実験を行っています。この装置はエンジンの圧縮・燃焼・膨張の過程を単純化して再現でき、燃焼の様子を可視化できる装置です。図3に急速圧縮膨張装置の外観を示します。

図2 ノッキングに伴う圧力振動図2 ノッキングに伴う圧力振動
図3 急速圧縮膨張装置図3 急速圧縮膨張装置

 図4に、高速度カメラを用いて撮影したノッキングの様子を示します。この撮影された結果を画像解析し、反応帯の広がる速度を分析したり、図2に示した圧力振動を解析することによって、ノッキングの現象解明を行っています。

図4 ノッキングの様子図4 ノッキングの様子

 さらに、実験と同様の条件において数値シミュレーションも行っています。図5にその例を示します。実験では得られる情報が限られますが、流動や化学反応まで考慮した数値シミュレーションを行うことによって、詳細な現象理解・解明が行えるようになっています。

図5 ノッキングの数値シミュレーション(ノッキング強度低減効果の検証例)図5 ノッキングの数値シミュレーション(ノッキング強度低減効果の検証例)

排出ガスをきれいに

 さて、燃料資源の有効利用、CO2排出量低減の観点から重要である燃費に加えて、大気汚染の問題も重要です。ここでは、熱工学研究室で実施しているすすに関する研究を紹介します。

 近年、燃費改善に効果的であることから、ガソリンエンジンでは直噴方式のエンジンが普及しつつあります。これは、従来の吸気管(エンジンの外)で燃料を空気に混ぜる方式ではなく、エンジンの中には空気を吸い込んでおき、その中へ直接燃料を噴射する方式です。直噴方式が燃費改善に寄与する理由はいくつかあります。ここではこの記事の流れにそって一つ理由を紹介するとすれば、ノッキング抑制効果でしょう。液体燃料をエンジンの中に直接吹き込んで蒸発させますから、内部の温度を下げることができます。その結果、ノッキングを抑制でき、より効率が高くなる条件で運転できるということです。

 さて、ガソリンエンジンでは従来、未燃の燃料、一酸化炭素、窒素酸化物が規制値となっており、特にこれらを浄化する必要がありました。これらは、エンジン内部の燃焼を工夫するだけではすべてを同時に減らせないため、エンジンから排気ガスが出た後に、触媒という浄化装置を取り付けることによって浄化しています。それに加えて近年では、ガソリンエンジンにおいても粒子状物質(簡単には、すす)の排出が問題になっています。その詳細な過程はここでは割愛しますが、ガソリンエンジンから排出される粒子状物質は非常に小さく、肺の奥深くまで到達し、大きな健康被害を招く可能性があることから、非常に厳しい規制が設定されて、2014年、2017年と段階的に強化されています。

 熱工学研究室ではこのすすの生成条件や生成プロセスを明らかにするために、ガソリンエンジン内での火炎を定常的に再現できる装置を作成し、すすおよびすすの元となる成分の計測と数値モデルの構築を行っています。図6に、実験装置とモデル火炎の様子を示します。このようにして形成された模擬火炎に対して、図7に示すような化学種分析システムやレーザシステムを用いて計測を行っています。計測結果は数値解析結果の検証に使用しています。

図6 プール燃焼火炎図6 プール燃焼火炎
図7 加熱脱着装置付ガスクロマトグラフによる化学種分析図7 加熱脱着装置付ガスクロマトグラフによる化学種分析

おわりに

 以上、大分大学工学部 熱工学研究室で実施している環境に関わる研究をいくつか紹介しました。今回はガソリンエンジンを基準として紹介しましたが、実際にはバイオ燃料など、多様な燃料について同様の実験を行っています。また、スターリングエンジンなど、より環境に優しいエンジンについても教育・研究を行っています。

 1960年代に環境問題が深刻化した頃、我が国の技術者の皆さんは、「子どもたちに青空を」という想いで乗り越え、この空を守り続けてくれました。教職員、学生一同、次の世代へ同じ想いを伝えられるよう、教育・研究を続けてゆきます。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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