水と二酸化炭素を利用した環境調和型工業溶剤の開発 |
化学工業で物質をよく溶かすために利用されているトルエンなどの溶剤は、VOC(揮発性有機化合物)と呼ばれ、火災や悪臭、健康被害、環境汚染の原因になることがあります。そのため、世界的にVOCの利用量削減が進められています。
弘前大学理工学部は、自然界にある物質の水と二酸化炭素(CO2)をもとにしたVOCと類似の性質を持つ溶剤「水/超臨界CO2分散システム」の開発に成功しました。これは、VOCにとって代わる”環境調和型の万能溶媒(ようばい)” として期待されています。
すべての物質は、臨界点(CO2の場合、約31℃、73気圧)と呼ばれる固有の値を持ち、それを超えた条件で超臨界流体となります。
CO2の超臨界流体(超臨界CO2)は、溶剤としてVOCと類似の性質を持つことから、脱VOCの手段として、さらには超臨界CO2の工業的利用はCO2を地上に固定化する点から地球温暖化の抑制手段としても注目されています。
しかし、超臨界CO2は、水溶性の物質を全く溶かさないため利用が限られていました。
流体には[固体・液体・気体]があります。水の場合、温度によってそれぞれ[氷・水・水蒸気]と変化します。この温度の変化に圧力を加え、水を熱すると蒸気が出ています。飽和水蒸気量を超えても出続ける蒸気は圧力と密度を増していき、水の密度と変わらなくなります。この水と水蒸気の密度が同じになった状態が”臨界点”と呼ばれる状態です。
この臨界点以上の温度・圧力の状態を”超臨界流体”といいます。
超臨界CO2(左下透明領域)と分散した微小水滴
(右上粒子群、約10万分の1メートルの大きさ)
これを解決するために私たちは、超臨界CO2に水を微粒子(10億分の1~10万分の1メートルの大きさ)として分散させた「水/超臨界CO2分散システム」の調製を試みました。化粧品の材料にも用いられる安全性の高い物質を利用して界面活性剤を新たに合成し、それを利用することで「水/超臨界CO2分散システム」を形成することに成功しました。
水/超臨界CO2分散システムでは、超臨界CO2が油溶性物質を溶解し、水粒子が水溶性物質を溶解することができるため、例えばドライクリーニング、酵素反応、半導体の精密洗浄、染色などの、より広範囲な応用が可能となります。また、水とCO2は光合成の材料でもあるため、人工光合成の反応場としても期待されます。
安全性の高い界面活性剤による水/超臨界CO2分散システムの構築の成功例はほとんどありません。したがって、この成功は今後の礎となります。現在、より低コストで環境適合性の高い界面活性剤の開発も進められています。
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