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電子顕微鏡で観察するミクロな試料を“触る”マニピュレータ

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海に眠るブルーエネルギーが地球を救う

2018年4月12日岡山大学 環境理工学部 環境デザイン工学科
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工学ホットニュース

2017年夏、鹿児島県トカラ列島沖で世界初の海流発電の実証試験が行われた。また、長崎県五島列島では、狭い海峡の速い潮流を利用した潮流発電の実証試験が始まる予定だ。同じく長崎県五島列島沖や原発災害に見舞われた福島県沖では、世界最先端の浮体式の洋上風力発電の実証試験も行われている。さらに、北九州市沖の響灘では、浅い海域を活かし、浮体を使わずに風車を直接海底に設置する方式で国内最大規模の洋上ウィンドファームの建設が予定されている。44基の大型風車の設置により、北九州市の全世帯の実に4割(17万世帯)の電力を賄う計画だ。この他に、波力発電や海洋温度差発電などの開発も進められている。これらはいずれも海に眠る海流、潮流、風、波、温度差などの再生可能エネルギーを利用した発電であり、「海洋エネルギー」や「ブルーエネルギー」などと呼ばれる。陸上風力や太陽光発電に続く、次世代の再生可能エネルギーとして世界的に期待されているのだ。

豊富なブルーエネルギーが地域社会や国土保全にもたらす恩恵

 排他的経済水域を含めた日本の海洋面積は世界第6位の広さを誇り、その広大な海域には膨大なブルーエネルギーが眠っている。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「海洋エネルギーポテンシャルの把握に係る業務に関する成果報告書」(平成22年度)によると、潮流エネルギーは日本全体で原発20基に相当するポテンシャルがあり、特に急潮流の多い瀬戸内海だけでも原発7基分に相当する。前述の洋上風力などはさらに豊富なポテンシャルが期待でき、ブルーエネルギーだけで日本の全電力を賄えるほどのポテンシャルが存在するのだ。ブルーエネルギーの活用は、新たな産業の集積を地域にもたらすだけでなく、地域内のエネルギーを地産地消することで、エネルギー調達に伴う富の流出を防ぐとともに、地域内に富の循環を生み出し、地域経済に多大な恩恵をもたらす。さらに、地域ごとの特性を活かしたエネルギーの地産地消は、わが国全体のエネルギー自給率を高め、エネルギー源の分散化により災害に強い国土を構築できるのである。そして最終的に、原子力や化石燃料などの「枯渇資源」から脱却し、すべての文明活動の根幹であるエネルギーを持続可能なエネルギー(再生可能エネルギー)に転換することによって、人類の究極の目標である「持続可能な社会」を実現できるのだ。

総合工学としてのブルーエネルギー、そして持続可能な新たな国づくりへ

 ブルーエネルギーを電力に変換するための発電機には、電気・電子工学、機械工学、流体工学はもちろんのこと、強い波や風などの苛酷な海の環境下でも稼動できるよう、造船工学や耐風工学などの技術も必要になる。また、海上や海底への安定的な発電機の設置には、海洋土木の技術が重要な役割を担うことになる。さらに、発電した電力の蓄電や送電、水素エネルギーへの変換などの周辺技術の開発も進めなければならない。

 一方、エネルギーの地産地消を基盤とする社会では、その地域で生産可能なエネルギー量が、その地域で構築可能な都市の最適規模を決めることになる。現在の東京や大阪など、原子力や化石燃料などの枯渇資源を前提に構築された一極集中型の巨大都市は将来、持続不可能になることは明らかであり、再生可能エネルギーに適した、より分散化した国土構造をめざさなければならない。このような都市や地域のエネルギー収支の最適化に着目した国土構築のためには、都市工学や交通工学の果たす役割も大きい。

 小規模な都市が分散し、各地域の持続可能エネルギーの地産地消を基盤としながら、エネルギーが強固にネットワーク化されて相互補完的に支え合う社会は、エネルギーだけでなく、防災、防衛、経済、福祉などのあらゆる面で強固な国土を実現できる。このように、ブルーエネルギーの開発およびその先の持続可能社会の実現には、あらゆる工学分野の英知の結集が必要であり、新たな国づくりに向けたオールジャパンによる取り組みが求められているのだ。

岡山大学におけるブルーエネルギーへの取り組み~革新的な潮流・海流発電Hydro-VENUSの開発~

Hydro-VENUSの概念図

Hydro-VENUSの概念図

 岡山大学環境理工学部では、持続可能な社会の実現に向けた様々な研究に取り組んでいる。本テーマであるブルーエネルギーの関連では、革新的な潮流・海流発電を開発中だ。前述のトカラ列島や五島列島の関連記事で示したように、潮流・海流発電では風力発電と同じく、飛行機の翼の形をした羽根をプロペラのように回転させて発電する方式が採られてきた。一方、岡山大学で開発中の技術は、巨大な振り子を潮流・海流の流れで振動させて発電する方式だ(本記事見出しの図)。Hydro-VENUS (Hydrokinetic Vortex ENergy Utilization System)と名付けたこの方式は、流体力学的な作用によって生じる振り子の流体励起振動(りゅうたいれいきしんどう)を利用して発電する。従来の翼型の羽根に比べて、この振り子は単純形状で製造しやすく、低コストかつ高強度、流れの変動に対して失速しにくいなどの特長がある。さらに、この振り子を従来のプロペラのように回転させることも可能で、水深などの環境の違いに応じて様々な形態を採ることが可能だ。

逆転の発想から生まれたHydro-VENUS

 Hydro-VENUSは、潮流・海流発電や風力発電の分野とは全く異なる「耐風工学」と呼ばれる分野の技術から生まれた。瀬戸大橋や明石海峡大橋などの長大構造物において、風によって「空力振動」と呼ばれる流体励起振動が発生することがある。1940年にアメリカのタコマナローズ橋において、風によって発生した空力振動は時間とともにますます増幅し、最後には橋全体が崩壊してしまった。当時の技術者は、巨大な吊橋がなぜ風で激しく振動したのかを説明できなかったが、その後、耐風工学の分野で様々な研究が行われ、空力振動の詳細なメカニズムが明らかになってきた。空力振動を制振するための様々な耐風技術が開発され、現在では、瀬戸大橋や明石海峡大橋などの長大橋、スカイツリーのような巨大タワーの建設に活かされている。しかし、逆に、巨大構造物を破壊するほど強力なパワーを持つ空力振動や流体励起振動を活用すれば、風や水の流れから効率的にエネルギーを取り出せるかもしれない。このようにして、有害な振動を有益な振動として活用する逆転の発想から生まれたのがHydro-VENUSなのだ。

(Imperial College Londonより引用)

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