現在日本においては、2050年までのカーボンニュートラルを目指して、洋上風力発電の開発が急速に進んでいます。洋上風力を開発するには、計画から運用に至るまでのあらゆる段階において、正確な風の情報が必要となります。風力発電事業では、その場を吹く風でどれだけ発電できるかが事業収入に直結するため、計画段階から慎重に風況を調査することが事業成否の鍵を握っています。
洋上風力開発が先行する欧州では、従来、洋上風力発電所の計画海域に高さ100mほどの風況観測マストを建設して、風況を計測してきました。しかし最近の洋上風車の大型化に伴い、風車上端の高さは250m近くになってきたため、風況観測マストでは風況を正確に把握し辛くなってきました。そこで、ドップラーライダーと呼ばれる測器を使って、上空の風を計測する方法が開発されてきました。ドップラーライダーとは、大気中にレーザー光を照射して、風と共に移動するエアロゾル等から返ってきた散乱光を受信することにより、ドップラー効果を利用して上空の風況を計測する装置です。
洋上風況を計測するのに使われるドップラーライダーには、主に、①鉛直ライダー、②フローティングライダー、③スキャニングライダーの3種類があります。①と②は、上方に角度を付けて複数のレーザー光を照射することにより、数百mの高さまでの風を計測するものであり、①を浮体の上に設置したものが②になります。③は海岸に設置して海上に向けてレーザー光を照射することにより、沖合数kmまでの風況を計測することができます。ただし、いずれの装置も直接計測できるのはレーザーを照射した方向の風速成分だけであるため、水平風ベクトルの計測精度を上げるために、③を2台用いたデュアル・スキャニングライダー観測等の研究開発も進められています。
神戸大学は、2019年度~2022年度前期に行われたNEDO事業「着床式洋上ウィンドファーム開発支援事業(洋上風況調査手法の確立)」(図1)に参画し、青森県むつ小川原港を現場観測サイトとして(図2)、上で述べたリモートセンシング機器を用いた風況観測の技術開発に携わってきました。そこでの研究成果も踏まえ、現在、今後の国の洋上風況調査の指針となる「洋上風況観測ガイドブック」の作成が行われています。
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