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環境への取り組み

路面凍結防止剤が道路環境に及ぼす影響とその対策

信越・北陸地区

2018年9月28日
信越・北陸地区

福井大学 工学部
建築・都市環境工学科

 日本の国土は南北に長く、北海道、東北、北陸、西日本の日本海側などでは低温や降雪が観測されます。低温や積雪によって生活や社会活動に支障が生じるような地域では、国の補助を受けて、道路除雪、吹雪、雪崩など様々な雪寒対策が実施されています。その一つに、路面凍結を防ぐための凍結防止剤散布があります。凍結防止剤は、路面凍結を回避しスリップ事故を防ぐように働きますが、そのものは塩であるため車両や道路構造物など周辺環境への塩害が懸念されます。ここでは、福井大学工学部建築・都市環境工学科が取り組んでいる「冬期道路の健全性と交通の安全性を両立されるための凍結防止剤散布の最適化を目指した研究」について紹介します。

冬期間に道路ではどのような問題が起こるの?

 冬期間、日中の雨や雪解け水によって道路が濡れ、夜間の気温低下によって路面が凍結することがあります。走行車両はタイヤと路面との間の摩擦力を得て、前進し進む方向をコントロールできますが、凍結路面になると摩擦力が著しく減少しタイヤが空転して前進できないだけでなく、進む方向を制御できなくなって事故につながる可能性があります。また、豪雪時には、凸凹で滑り易い路面が発生し、車両はスタックと呼ばれる発進不能に陥ります。平成30年に福井では約1500台の車両が最大で66時間も立ち往生しました。冬期間に円滑・快適・安全な道路を確保するために、除雪や凍結防止剤散布が不可欠です。

凍結防止剤の散布状況凍結防止剤の散布状況

凍結防止剤って何?

 凍結防止剤とは、読んで字のごとく凍結を防止する剤です。一番多く使用されている防止剤は塩化ナトリウムで皆さんが口にしている塩です。水に塩が混ざると凝固点降下と言って、固まる(氷になる)温度が低くなります。気温を下げていくと、水の場合は0℃で凍り始め、完全に固まってから氷点下に温度低下しますが、塩水は凍結と温度低下が同時に起こり、氷点下でも水分が存在します。この凝固点降下の作用を期待して、凍結防止剤を凍結しそうな路面、あるいは凍結した路面に散布しています。道路に塩を撒いておくと、道路上の水分は氷点下になってもなかなか凍りません。実際に道路への凍結防止剤の散布は路面凍結の防止に効果があり、これなしでは冬期道路の安全性は確保できないでしょう。

凍結防止剤は道路環境にどのような影響を及ぼすの?

 道路に撒かれた凍結防止剤は環境問題に発展しています。北陸自動車道は供用年数40年を超える区間があり、長年に亘って散布された凍結防止剤は累計で500~1000 t/kmに及ぶそうです。こうして大量に撒かれた凍結防止剤によって、橋梁の早期劣化が報告されています。具体的には、橋梁道路上に撒かれた凍結防止剤は雨水や融雪水に溶け込み、道路表面のひび割れ部から橋梁内部に浸透します。橋梁内部には橋の強度を保つために鉄筋が埋設されていますが、塩分の浸透によって鉄筋は錆びます。鉄筋が錆びると膨張するため、その周りのコンクリートはひび割れが生じ、押し出されるように剥がれ落ちます。そして鉄筋が露出すると、腐食がさらに進行し、最終的には鉄筋が痩せ細り、橋は設計の強度を保てなくなります。

劣化した道路橋コンクリート床版劣化した道路橋コンクリート床版

凍結防止剤散布の最適化とは、どのような研究なの?

 凍結防止剤は冬期道路の安全と引き換えに道路インフラの寿命を多かれ少なかれ縮めています。この事を踏まえるとスリップ事故に対する安全性を確保できる最小限で凍結防止剤を散布することが望ましいことは容易に理解できます。しかし、残念ながら凍結防止剤の散布効果を評価する決定的な術がありません。現状では、現場での工夫があったとしても20g/m2前後を一律に散布されています。基本的に、凍結防止剤の散布効果は気温と路面上の氷や水の量に影響されるため、路線において同じ散布効果を得るには、あるいは均一な安全性を確保するには、状況に応じて散布量を増減させる必要があります。路線の状況、日陰や日向、橋梁やトンネルなど、空間的に変化し、舗装の種類も区間ごとに異なる場合もあります。一律20g/m2の散布は果たして適切でしょうか?余分に道路インフラの寿命を縮めていることはないでしょうか?

 本研究では、こうした課題を解決するために、冬期道路改善シミュレーターWiRISを開発しています。WiRISは路面温度、水膜厚、気象(気温と降雨降雪量)、交通量、舗装の種類、凍結防止剤散布量を入力すると、「数時間先のすべり摩擦係数(スリップの危険性)」、「任意の散布条件での散布後のすべり摩擦係数」および「必要な散布量」を出力します。最近は、WiRISと必要なセンシング装置を搭載し、走行しながら路面凍結の危険性や最適な散布量を評価する車両の開発を行っています。このようにして、冬期道路でのスリップ事故を引き起こさせない最低限の凍結防止剤の散布を目指しています。将来は、目覚ましく発展している人工知能技術と融合して、人工知能を持った散布車が自ら判断して出発し、適切な量と場所で散布し、除雪基地に戻ってくるようなことになるかもしれません。

 福井大学工学部建築・都市環境工学科は、今回紹介した凍結防止剤の問題のように、成熟社会化に伴って顕在化しつつある課題、すなわち社会基盤施設の維持管理や保全、防災・減災に資する国土の強靭化など、安全で安心な社会生活環境の実現に貢献する実践力のある人材を育成することを目指しています。ぜひ一緒に学びましょう。

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