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環境への取り組み

環境科学ビッグデータを用いて
太陽光発電の導入可能性を評価しよう!

関東地区

2018年9月14日
関東地区

電気通信大学
大学院情報理工学研究科 情報学専攻(情報理工学域 Ⅰ類)
山本佳世子研究室(http://www.si.is.uec.ac.jp/yamamotohp/)

1.研究の背景

 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故(2011年)は、日本では電力供給方法について改めて考える契機となりました。そこで、一般家庭でも発電が可能であり、環境リスクの低い太陽光発電が注目を集めるようになりました。日本では太陽光発電導入に対する経済面での支援が行われ、一般家庭への装置導入の時に国の補助金が支給される「住宅用太陽光発電導入支援復興対策事業」、電力会社が余剰発電量を買い取る「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が2012年から実施されています。しかし、太陽光発電には日射量が大きく影響し、設置場所により発電量に差があるという問題点があります。また、自治体ごとに補助金額が異なり、太陽光発電を導入するメリットが得られない地域もあります。

 そこで、一般家庭の住宅を対象とし、日射量と太陽光発電装置設置可能面積から太陽光発電導入により得られる発電量を推計して、これと太陽光発電導入・維持にかかる費用や補助金、電力買取価格を比較・検討することで、損益と回収期間に着目して太陽光発電導入の可能性を評価した成果について紹介します。ここでは、解析・評価には、地理情報システム(Geographic Information Systems: GIS)を用いました。評価対象地域は神奈川県全域としますが、神奈川県と県下の市町村では独自の補助金を実施し、太陽光発電の導入に積極的に取り組んでいます。

2.評価のフロー

 本研究における評価方法のフローを図1に示します。初めに、評価対象地域におけるシナリオ別の太陽光発電の導入可能性の評価を行いました。太陽光発電導入の損益と回収期間の導出では、18とおりのシナリオを用意し、シナリオ別にこれらを推計して、太陽光発電導入で利益が見込めるシナリオと損失が発生するシナリオの条件を明らかにすることにより導入可能性を評価します。次に、評価結果に基づき、太陽光発電の普及促進のための施策を提案するために、各市区町村単位で太陽光発電導入について比較・検討します。まず、太陽光発電導入による損益、回収期間について比較することにより、全市区町村を分類します。続いて、太陽光発電導入に関する問題点としてあげられる初期費用の高額さを考慮し、少容量太陽光発電装置(2kWシステム・100万円以下、小容量装置とする)の導入を検討します。これらの比較・検討結果に基づいて、各グループに適した太陽光発電の普及促進のための施策を提案します。

 GISとして、ESRI社のArcGIS Ver10.1を利用しました。データを全て500mメッシュ単位(500m×500mの地域単位)の同一形式に変換・加工し、解析・評価結果も全て同様な単位で整理して、デジタル地図上で表示すること、これらの結果を市区町村単位でさらに集計すること、年間日射量を推計することでGISを用いました。このように、GISを用いることで、環境科学分野のビッグデータの効率的な解析・評価が可能になります。

図1 評価方法のフロー図1 評価方法のフロー

3.太陽光発電の導入可能性の評価

 図1に示した評価方法のフローに従って、標高データから日射量、建物データから太陽光発電装置設置可能面積を算出し、これらを基に年間発電量を推計しました。そして、太陽光発電導入・維持にかかる費用や補助金、電力買取価格を比較・検討することで、太陽光発電導入の可能性を評価しました。

図2、3には、評価対象地域全域における評価結果の一例として、現状で太陽光発電導入の可能性が最も大きいと考えられる条件を持つシナリオ(装置価格46.6万円、モジュール変換効率15%、国、県、市町村の補助金有)の売電率60%の時の損益と回収期間について結果を図示しています。売電率60%は、経済産業省資源エネルギー庁による試算で使用されている電力買取制度での平均売電率です。

 図2、3から、神奈川県での太陽光発電導入は、シリコン多結晶系15%の太陽電池モジュールで、装置の耐用年数を20年と想定した場合には、ほぼ県全域で利益を見込むことが可能なことが明らかなため、太陽光発電導入に適する地域だという成果を得ることができました。

 図2より、南西部では利益が多いが、東部では利益が少ない傾向が見られました。また、図3より、回収期間は設置場所により数年の差があり、北部では短く、南部ほど長くなる傾向が見られました。しかし、これらは太陽光発電装置の耐用年数を20年と想定した場合の結果であり、実際には耐用年数以上稼働する可能性があるため、その期間分だけ利益を多く得ることができる可能性があります。

図2 太陽光発電による損益(円)図2 太陽光発電による損益(円)
図3 太陽光発電による回収期間(年)図3 太陽光発電による回収期間(年)

4.太陽光発電の普及促進のための施策の提案

(1) 各市区町村の分類

 前章における売電率60%の時のシナリオの損益と回収期間の評価結果に基づき、これらの最大値と最小値の平均値をそれぞれ基準として、神奈川県内の各市区町村を4つのグループに分類しました(図4)。

 最適型は利益を多く見込め、回収期間も比較的短い地域です。二宮町や愛川町などの人口が少ない地域が属する一方、川崎市麻生区・宮前区、横浜市青葉区などの政令指定都市の一部の地域もこのグループに属しています。これらの地域は太陽光発電装置設置可能面積も大きく、補助金も多く給付されるため、利益が多く回収期間も短くなり、神奈川県内では最も太陽光発電の導入に適しています。

 次に、高利益・長期回収型は多くの利益を見込める一方、回収期間が長い地域です。この地域は太陽光発電装置設置可能面積が大きいため、大容量の太陽光発電装置を導入することが可能ですが、そのために初期費用を多く必要とすることや、自治体による補助金が他の地域に比べて少ないことから、回収期間が長くなります。特に南足柄市は補助金が8千円/kW(上限2万円)と少ないため、このグループの中でも回収期間が長い結果となっています。また、箱根町など大部分が山地の地域では、標高が高いため日の当たる地域では日射量が多く、最終的な利益が多く見込める一方、山間部では日射量が少なく、あまり利益が見込めない場所も存在します。したがって、設置場所による利益の差が大きい地域では、太陽光発電装置の設置時にこのような点に注意が必要です。しかし、このグループは回収期間が長いですが、年間の利益が大きいため、太陽光発電装置が耐用年数と想定した20年以上稼働すれば、他のグループに比べて多くの利益を見込むことができます。

 低利益・短期回収型は太陽光発電装置設置可能面積が小さいため、利益はあまり見込めませんが、回収期間が他のグループに比べて短い地域です。ここには横浜市、川崎市、相模原市などの人口が多い政令指定都市の多くの区が属しています。太陽光発電装置設置可能面積が小さいため、初期費用が安価に抑えられるうえに、各市町村の補助金が他の地域に比べて多いため、回収期間が短くなっています。

 最後に、設置困難型は現状では太陽光発電の導入に不適とまではいえませんが、他の地域に比べて利益が低く、回収期間も長い地域です。市としての補助金が給付されていない三浦市、1万円のみの定額給付である横須賀市が属しており、このグループの中でも特に回収期間が長い地域になっています。また、茅ヶ崎市のように、補助金があまり多くなく(1万円/kW(上限4万円))、太陽光発電装置設置面積も大きくない地域も、このグループに属しています。

図4 神奈川県内の各市区町村の太陽光発電の損益と回収期間の比較図4 神奈川県内の各市区町村の太陽光発電の損益と回収期間の比較

(2) 少容量装置の検討

 第2章で紹介した少容量太陽光発電装置を導入した場合の損益と回収期間を推計し、この導入の可能性についてもさらに検討します。少容量装置導入に適するか否かは、一般的な太陽光発電装置の耐用年数内に利益を見込むことが可能であるかという点に加え、太陽光発電装置設置可能面積全てに一般的な装置を設置した場合と比較して、損益、回収期間で差が少ない必要があります。少容量装置導入では余剰発電量がほとんど見込めなくなる可能性があり、利益は下がり、回収期間も長くなるため、耐用年数内に利益が得られるものであっても、一般の装置の場合と比較して損益、回収期間それぞれでの差が大きい地域では、少容量装置導入に適するとは言い難い状態になります。

 これらを踏まえ、少容量装置導入について検討した結果を図5に示します。縦軸に少容量装置導入の場合と設置可能面積全てに一般的な太陽光発電装置を導入した場合との回収期間の差を取り、横軸に同様な損益の差を取っています。そのため、少容量装置導入の場合と太陽光発電装置設置可能面積全てに一般的な装置を導入した場合とを比較すると、原点に近い地域ほど、損益、回収期間ともに差が少なく、少容量装置導入に適する地域となります。このような地域は、横浜市、二宮町、伊勢原市、平塚市などであり、全て補助金が定額制の地域となりました。また、川崎市と横浜市は、大部分の区が低利益・短期回収型のグループに同じく属していますが、少容量装置導入では横浜市の方が適しているという結果になりました。

図5 神奈川県内の各市区町村の少容量装置の導入の可能性の検討図5 神奈川県内の各市区町村の少容量装置の導入の可能性の検討

(3) 各グループの施策の提案

 本章における各市区町村の分類と少容量装置導入の検討の結果を基に、図4に示した4つのグループごとに太陽光発電の普及促進のための施策を提案します。

 最適型の施策としては、新たな補助金制度などを試みるよりは、このような地域が太陽光発電導入に適するということを広く広報することより、導入を促進できる可能性が大きくなります。特に横浜市青葉区・都筑区、二宮町には少容量装置導入も奨励できるので、これを強く推進したい場合にはまず上述の地域に対して導入を試み、モデルケースを作る方法も考えられます。高利益・長期回収型では、各市区町村の補助金は他の地域に比べて少ない地域が多いため、これらの地域に対しては各市区町村の補助金額を引き上げることなどにより、太陽光発電の普及促進につなげることが可能になります。

 低利益・短期回収型は各市町村の補助金は多いのですが、太陽光発電装置設置可能面積が小さいため、支給される県の補助金が他の地域に比べ少なくなっています。しかし、前節で示したように、横浜市は補助金が定額制であるため、県の補助金も定額制になった場合には、利益の増加を見込むことができます。また、横浜市は少容量装置導入に適するため、これを強く推奨することで、太陽光発電導入世帯数を増加させることが可能になります。設置困難型の地域は、三浦市や横須賀市など補助金が給付されていない地域や金額が少ない地域が多くなっています。そのため、このグループに対しては、各市町村からの多少の補助金の給付または給付金額の引き上げが考えられます。また、このグループの中で、利益が比較的大きく回収期間も短い地域において、より利益が大きく回収期間が短い場所にまずはポイントを絞って、太陽光発電装置設置を促す方法が考えられます。

参考文献

Yasushi IWASAKI and Kayoko YAMAMOTO (2014) Economic Evaluation Method of Photovoltaic Power Generation Installed in Ordinary Homes. Smart Grid and Renewable Energy, Vol.5, No.6, 137-151

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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