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環境への取り組み

下水処理場を
地域のエネルギー・リン資源供給ステーション化へ!

東北地区

2018年8月17日
東北地区

岩手大学 理工学部
システム創成工学科 社会基盤・環境コース
伊藤歩 准教授

日本におけるリン資源確保の現状

 日本は国内で肥料などとして使用されるリン(P)資源のほぼ全量を海外からの輸入に依存しています。その輸入量は年間で約40万トンであり、そのうちの約5万トンが人間を介して下水処理場に流入していると試算されています。下水中のリンは、窒素成分とともに閉鎖性水域である湖沼や内湾における植物プランクトンの異常増殖を引き起こす原因になります(写真-1)。そのため、下水処理場ではリンや窒素の除去を強化する処理方式が採用されてきています。下水中のリンは、凝集剤で化学的に沈殿させるか、浄化微生物の体内にポリリン酸として過剰に摂取させて、汚泥(固形物)として取り除く必要があります。下水汚泥の総発生量は年間で約220万トンに達し、そのうちの約7割が焼却処理されています。従って、下水から除去されたリンの多くは、下水汚泥の焼却灰(以下、下水灰とします。写真-2)に含まれています。下水灰はセメントなどの建設資材の原料として利用されるか、最終処分場に埋め立てされるため、下水灰中のリンは肥料などとして有効に利用されていない状況にあります。

写真-1 ダム湖における植物プランクトンの異常増殖の様子写真-1 ダム湖における植物プランクトンの異常増殖の様子
写真-2下水灰写真-2 下水灰

下水灰からのリン資源回収

 下水灰中のリンの多くは水に溶けにくいリン酸アルミニウムやリン酸鉄として存在し、また、下水灰は微量ながらも有害な重金属類も含んでいます。従って、下水灰をそのまま肥料として利用することは難しいです。岐阜市では下水灰にアルカリ剤を加え、リンを溶かし出し、肥料として利用しやすいリン酸カルシウムとして回収する取り組みを行っています。しかしながら、リンの回収率は5割程度とさほど高くありません。リン鉱石から肥料の原料となるリン酸を生成する場合、リン鉱石を硫酸で溶かします。下水灰中のリン化合物も硫酸でほぼ溶解し、リン酸となりますが、アルミニウムイオン(Al3+)や他の重金属イオンも共存します。従って、この溶液からAl3+や他の重金属イオンを除去する必要があります。そこで、研究室ではイオン交換膜を用いた電気透析法による金属イオンの除去を検討しました。

 イオン交換膜には、陽イオンを透過させる陽イオン交換膜と、陰イオンを透過させる陰イオン交換膜があります。リン酸は、強酸性の条件では非イオンのH3PO4として存在します。図-1に示すようにイオン交換膜を交互に配置し、その外側を電極で挟み、真ん中の部屋(中間槽)に下水灰の硫酸溶出液を加えて通電することにより、陰極側に陽イオン、陽極側に陰イオンが引きつけられ、Al3+と硫酸イオン(SO42-)がそれぞれ陽イオン回収槽と陰イオン回収槽に分離され、中間槽にはH3PO4と硫酸(H2SO4)が残存すると予想しました。電気透析装置の試作品を製作(写真-3)し、実験を行ったところ、10時間の通電によってAl3+の大部分が陽イオン回収槽に移動し、H3PO4の6割程度が中間槽内に残ることが分かりました。この中間槽内の溶液を取り出してアンモニア水で中和し、乾燥することでリン酸アンモニウムと硫酸アンモニウムの混合物(写真-4)を得ることができました。この混合物は水に容易に溶け、また、重金属類の含有量が低いことから、即効性のリン酸質肥料の原料として利用できることが分かりました。

 本技術は残念ながら実用化には至っていませんが、今後、リン産出国がリン鉱石の輸出を制限し、リン鉱石の価格が高騰するような事態が起これば、実用化も夢ではないかもしれません。

図-1 電気透析による金属イオン除去のイメージ図-1 電気透析による金属イオン除去のイメージ
写真-3 電気透析装置の試作品写真-3 電気透析装置の試作品
写真-4 下水灰から回収したリン酸塩化合物写真-4 下水灰から回収したリン酸塩化合物

下水汚泥の燃料化と肥料化

 2015年に下水道法の一部が改正され、下水道管理者には下水汚泥を燃料や肥料として再生利用する努力義務が課されました。下水汚泥は水分を除いた固形物の約8割を有機物が占めています。この有機物の潜在的な総発熱量は約43PJ(ペタジュール)と見積もられており、これは原油換算で約110万kL(年間原油輸入量の約0.5%)に相当します。下水汚泥を燃料化する方法としては、嫌気性微生物を利用して有機物をメタンガスに変換してバイオガスを取り出す嫌気性消化(メタン発酵)や、脱水汚泥を乾燥後に蒸し焼きにする炭化などがあります。残念ながら、下水汚泥中の有機物のエネルギー利用は、2015年度で全体の16%に過ぎず、今後、推進していく必要があります。しかしながら、嫌気性消化のデメリットとして、バイオガスに共存する硫化水素やシロキサンを除去する必要があること、汚泥から溶出するマグネシウムイオン、アンモニウムイオンおよびリン酸イオンが結合した析出物(写真-5)によって送泥管の閉塞が起こること、消化後の汚泥を有機質肥料として利用する際に微量な重金属類や有機化学物質(環境ホルモンや医薬品類)が問題になること、などがあげられます。これらの問題を解決するために、研究室では、紫外線を用いた硫化水素の分解除去法、嫌気性消化前の汚泥からのリン、マグネシウムおよびカリウムの分離回収法、鉄(VI)酸カリウムを用いた有機化学物質の分解除去法について研究を行っています。これらの方法が確立されることによって、汚水処理場の役割が単なる汚水処理だけではなく、エネルギーやリン資源を持続的に地域へ供給できるステーションとして発展してくことを期待しています。

写真-5 リン酸化合物の析出物写真-5 リン酸化合物の析出物
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