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環境への取り組み

環境科学ビッグデータを用いたシミュレーションに挑戦!

関東地区

2016年12月16日
関東地区

電気通信大学 大学院情報理工学研究科 情報学専攻
山本佳世子研究室(http://www.si.is.uec.ac.jp/yamamotohp/)

1.環境科学ビッグデータ

 現代のわが国では、ICT(Information & Communication Technology: 情報通信技術)の進展により、多種多量のデータ(ビッグデータ)の生成・収集・蓄積等が可能になりました。ビッグデータのうち一般的で代表的なものを列挙すると、ソーシャルメディアデータ、マルティメディアデータ、ウェブサイトデータ、センサデータ、オペレーションデータ、ログデータ、オフィスデータ、カスタマーデータなどがあります。これらのビッグデータは、リアルタイム性が高く更新頻度が非常に多い動的データ、更新頻度が年単位、月単位などであまり多くない静的データに分類することができます。

 そして環境科学分野のビッグデータには、これらのうちでは、動的データでは自然現象などのセンサデータが該当し、静的データの地理情報システム(Geographic Information Systems: GIS)の土地利用や土地被覆などのデータ、各種の観測データ、人口や世帯数などの統計データなども含まれます。環境科学分野では、このようなビッグデータを用いたシミュレーションを行うことにより、異変の察知や近未来の予想等を行い、私たちを取り巻く環境の変化の把握、将来の環境の予測ができるようになりました。以下では、大気拡散モデルとGIS、環境科学ビッグデータを用いてシミュレーションを行い、環境リスクを評価した研究事例について紹介します。

2.ダイオキシンの環境リスク

 世界の科学技術の進歩により、人間にとって有益な化学物質が研究・開発・製造されてきました。しかし化学物質の中には有害な物質も多数存在し、物を製造する過程で人為的に生成した化学物質や、物を焼却することで非意図的に発生した化学物質が、人間や生態系に有害な影響を与えることもあります。すなわち、特定の発生源から排出された有害化学物質、特に発がん性などといった人間にとって有害性のある化学物質が、大気や土壌、河川といった環境中に存在することがあります。こうした環境中に存在する有害化学物質は、呼吸や飲食、皮膚接触などといった経路から人間の体内へと取り込まれ、健康に影響を及ぼすおそれがあります。また有害化学物質が大気や土壌等の環境媒体を経て、植物や動物、魚類などの生態系に蓄積されることもあります。こうした有害化学物質による環境への負荷を、未然に効果的かつ合理的に、防止または低減することが環境リスクの研究分野において重要視されています。

3.大気拡散モデルとGISを用いた環境リスクの評価方法

図1 環境リスクの評価のフロー図1 環境リスクの評価のフロー

 以上の背景に基づいて、特定の発生源から排出された有害化学物質の環境リスクの評価を行いました。環境リスクとして20世紀末のわが国で社会問題にも発展した有害化学物質の代表であるダイオキシン類を取り上げ、東京都の大気中のダイオキシン類の主要発生源の焼却炉対象とし、環境リスクの評価を行いました。ダイオキシン類の問題は、わが国においてリスクコミュニケーションが発達する契機にもなりました。

 図1のように2段階に分けて環境リスクの評価を行うため、利用する大気拡散モデルは2種類あります。第1段階の評価対象地域全域を対象にした広範囲の評価では、独立行政法人産業技術総合研究所‐曝露・リスク評価大気拡散モデル(AIST-ADMER Ver.2.5)を利用しました。第2段階の発生源近傍を対象にした局所的かつ詳細な評価では、経済産業省‐低煙源工場拡散モデル(METI-LIS Ver.3.02)を利用しました。またGISとしては、ESRI社のArcGIS Ver.10を利用しました。環境科学分野のビッグデータとして、焼却炉から排出されるダイオキシン類のデータ、気象データ、土地利用データなどを用いました。環境リスクを評価するにあたっては、これらの 2種類の大気拡散モデルより得られたシミュレーション結果と土地利用データとのオーバーレイ解析(重ね合わせ解析)、統計処理を行いました。

4.第1段階の評価対象地域全域を対象にした広範囲の評価

 ダイオキシン類がわが国で大きな問題になったのは20世紀末ですので、第1段階の評価結果として、図2には2000年のダイオキシン類の大気中濃度分布、同じく土壌中の沈着量分布を100m単位の区画ごとに示しています。大気中濃度、土壌中の沈着量ともに、局所的に高くなっている地域が確認できます。図3は2000年における全焼却炉の分布を示しました。図2と図3を比較すると、東京都全域に規模の異なる焼却炉が分散して立地していますが、大気中濃度、土壌中の沈着量が局所的に高い地域だけに、焼却炉が集中しているわけではないことがわかります。このことから、個々の焼却炉の状況を検討することが必要になることがわかります。

図2 2000年のダイオキシン類の大気中濃度分布(上)と土壌中の沈着量分布(下)図2 2000年のダイオキシン類の大気中濃度分布(上)と土壌中の沈着量分布(下)
図3 2000年における全焼却炉の分布図3 2000年における全焼却炉の分布

5.第2段階の発生源近傍を対象にした局所的かつ詳細な評価

 さらに第2段階では、図2中でダイオキシン類の大気中濃度と土壌中の沈着量がともに高かった多摩地区北部において、局所的かつ詳細な評価を行いました。第2段階の評価結果として、図4には2000年の多摩地区北部におけるダイオキシン類の大気中濃度分布、同じく土壌中の沈着量分布を100m単位の区画ごとに示しています。またこれらの図には、土地利用データを重ね合わせています。ダイオキシン類の大気中濃度、土壌中の沈着量が局所的に高い地域であっても、わが国の環境基準値である0.6pgTEQ/㎥、0.51gTEQ/ha以上の地域はありませんでした。しかしダイオキシン類の大気中濃度が環境基準値に近い場所がありますので、このような場所では注意が必要です。また河川でも、ダイオキシン類の大気中濃度と土壌中の沈着量が比較的高い場所がありますので、河川の生態系への影響に配慮する必要もあります。

図4 2000年の日野市北部におけるダイオキシン類の大気中濃度分布(上)と土壌中の沈着量分布(下)図4 2000年の日野市北部におけるダイオキシン類の大気中濃度分布(上)と土壌中の沈着量分布(下)

6.環境科学ビッグデータを用いたシミュレーションの展開

 近年のわが国では、多種多様なデータの公開(オープンデータ化)が進み、ウェブサイト上から無料でダウンロードして利用することができるようになりました。このため、かつてのようにデータ収集や加工で大きな苦労をする機会が減り、私たちの研究の幅も広がり、さらに新しい研究の展開が望めるようになりました。以上で紹介した研究事例では、化学物質としてダイオキシン類を取り上げましたが、他の化学物質を対象としても同様なシミュレーションを行うことができます。私たちの研究室では、以上の研究事例をさらに発展させ、より微量な化学物質のシミュレーションにも取り組んでいます。

参考文献

Masakazu ISHII and Kayoko YAMAMOTO (2013) An Environmental Risk Evaluation Method Employing Atmospheric Dispersion Models and GIS. Journal of Environmental Protection, Vol.4, No.12, 1392-1408

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